妖精の耳
第114偵察小隊。隊長、グリエット・ファイナ。
「我が小隊の任務は情報の収集。偵察小隊と名付けられているが、正直なところ、やることは博物館の学芸員みたいなことだ」
グリエットがぐるりと小隊の面々を見回す。
エルフ、コー、人間、寄せ集められたというのが正しい様々な種族からなる混成部隊。
隊員はグリエットの言うことを聞いてはいるが、興味はなさそうというのが正しい見方だろう。
「ただ、相手はあのエルドラージども。決して仲良くはなれない連中だがな。情報を持ち帰り、対策のための糧とする。我々は、生きて帰ることが至上任務なのだ」
「わあってるよ。そんなこと、言われなくてもな」
エルフの女性が、決して丁寧ではない話し方で答える。グリエットはそのエルフを見ながら口を開く。
「分かってもらえてるなら結構。ピアース、だったかな?」
「”あだ名”だけどね。そう呼んでもらっていい。あたしは森からヤツらを叩き出せればそれでいいんだ」
「おうとも! 俺だってそうよ!」
人間の男も呼応するように声をあげる。エルフよりも線が太く、がっしりしている。
歴戦の勇士というのが正しいのかもしれない。装備は使い込まれ、身体にもピッタリと合っているのがわかる。
「誰だってそうだ、ガンブス。海門の出身だったか? 今は影響が少ないだろうが、ヤツらはすぐにこのゼンディカー全部を覆い尽くすだろう」
「今だってさっさとぶっ殺して回りてえんだよ」
「叩き出してやるさ。森から、海門から、だがそれで十分じゃない。このゼンディカー全部から叩き出すんだよ。そのためには我々のような仕事がいる。敵を知らなくては、戦いようがないからな」
ふん、と二人は鼻で笑い飛ばした。
グリエットは気に留めた様子もない。
「さしあたって、1時間後には偵察行動を開始する。マップを持ったか。ルートを確認しておけ。では、1時間後に」
グリエットはそう言い放つと、二人を置いて、歩いていった。
偵察小隊はその性質から、素早く移動し、観察、記録、そして離脱を専門とする部隊だ。装備は最小限。移動を阻害するような重量物は持たない。防御を基本とし、本人が生存することを最優先とする。
「戦場が発生すれば、我々は即座にそこへ行き、記録し、帰投する。記録用の音声石。これを捨てることは決してならない」
「そうかよ、こんな石っころが」
ガンブスが不平を言う。グリエットは取り合わない。ピアースは興味がなさそうにしている。
「小隊であるが、基本的にはひとりで作戦行動をしてもらう。私は司令部だ、キミたちは逐次戦場へ投入する」
「な、単独行動ってことかよ」
「デカいなりして、お友達がいないと寂しいのかい? 人間はよう」
「余計な口を利くな、ピアース。ガンブス、お前もだ」
「へいへい」
二人とも、いきり立っている様子を覆い隠して、おとなしく従った。手に持った音声石を弄んでいる。
こんなもの、なんの役に立つのか。軽んじているのかもしれない。
実際には、心の中はわからない。分かる必要もない。
「まずはガンブス、お前に行ってもらう。現在地から、南へ3マイル行ったところに東西に2マイル広がった戦線がある。ここに出現したエルドラージを記録してこい。エルドラージの種別表を持たす。表にないものは、お前が情報を記録するんだ。音声石の使い方は読んだか。では行け」
「行けったって、この剣一本じゃ、大して戦えないんじゃないか」
「お前は根本的に勘違いをしている。お前は戦わない。交戦してはならない。お前は記録だけして帰ってこい。記録を持ち帰ることが優先だ」
「俺だけコソコソしてろってことかよ!」
「ずっとそう言っている。早く行け、交戦が終わるかもしれん」
ガンブスは、心底うんざりした顔をして、石をポーチに入れ、腰の剣を確かめると歩いて移動を始めた。
「ピアース、お前は次の指令まで待機だ」
「ふん、エルドラージに一泡吹かせることができるなら、あたしはなんだってやるよ」
「いい心がけだ」
戦場までの道のりは、決して楽なものではなかった。大地が隆起し、起伏が激しい。移動に時間がかかる。
しかし、ガンブスは今までの冒険者としての経験から、移動に関しては高いスキルを持っていた。それこそ、起伏など問題にならないほどに。
楽かどうかはスキルとは関係が無いということでもある。
「あれが、戦場か」
1マイル、いや半マイル程度か、先に火の使われた痕跡が見える。くすぶるような煙。それがすっと立ち上って、風で曲げられている様が見えた。
新たな煙が立ち上っては、風でかき消えているのを見ると、戦闘は続いているように見える。
これから先は戦場だ。どうなるか分からないのだろう。ガンブスは身を低くすると、起伏に沿って前に進んでいった。
やがて、剣戟の音と、えも言われぬ怪物の鳴き声、それの混じり合った地獄の音が聞こえてくる。
「記録を開始。小型のエルドラージ、落とし子タイプを確認している。主力はそいつら」
音声石の模様を押して、話しかけている。音声石には話し声が記録される。
ゼンディカー連合軍は、落とし子の集団と激しく切り結んでいる状態だ。落とし子の戦闘能力は他のエルドラージに比べれば高くはない。
いや、見慣れないヤツがいる。
「新型の個体を確認。人間大の、アリのようなエルドラージだ」
ガンブスはそのエルドラージの近くへ移動する。しかし、距離は保つ。あくまでも観察と記録が主であるためだ。
起伏のなかに身を潜め、それの観察を続ける。
「……死体回収屋のようだ。ゼンディカー軍の、殺されたやつの死体を集めている」
エルドラージの死体は、実は残りにくい。久遠の闇から送り込まれるエルドラージたちは、殺されると次元からかき消えてしまうことがほとんどだ。
ではなぜ、死体を集めているのか。
「おそらく、新しい落とし子を生み出すための依代として、肉体を集めているものと思われる」
そうだ、現世界に残る肉であれば、新しいエルドラージを生み出すための材料となりえる。
腹の立つ話ではあるが、エルドラージの取る戦略は、理にかなっている。
「ギッ」
気づかれたか?
その回収エルドラージが、振り向く。
そこに通りかかっていたのは、ゼンディカー連合軍の歩哨であった。
「う、うわあ!」
「ちっ」
戦い慣れしていないことが分かる。全身の動きがぎこちない。飛びかかるエルドラージ。
その歩哨は、あっさり組み伏せられてしまった。あれでは、すぐにやられる。
ガンブスは、剣の柄に手をかけた。
しかし、その刹那、思い出す。
『交戦は、これを許可しない』
グリエットの声が脳裏に蘇る。ガンブスは歯噛みする。
これが、偵察小隊の任務か。
そこにゼンディカー軍の兵士が駆けつける。
「大丈夫か! こいつう!」
槍を突き立てられ、回収エルドラージは絶命した。歩哨は兵士に肩を借りて、引き上げていく。
ガンブスは、ふたたび顔をしかめると、戦場を引き上げていった。
「よく戻ったな、ガンブス」
「こんなこと、続けるのかよ。ずっと」
音声石を聞いていたグリエットは、冷静にガンブスの顔をみやる。
表情は動かない。ずっと同じだ。冷静。それ以外の感情は見えない。
「そうだ」
「続けられるもんか、戦わずに」
「続けるんだ。お前は偵察小隊の重要さをまだ分かっていない」
「ちっ、そうかよ」
ガンブスはつばを地面に吐き捨てると、グリエットのところを離れていった。
グリエットはため息をひとつつくと、司令部へと引き上げていった。
その後、ゼンディカー軍は、味方の遺体は随時回収するという戦略を策定した。
この戦略により、戦場での落とし子の再発生率が低下したと報告がなされた。
エルドラージ解放!(統率者デッキ紹介)
みなさん、こんにちは。
あれから色々と発表が続き、ついに『ファウンデーションズ』も発売になりましたね。
基本セットという名前でこそなくなりましたが、'基盤/Foundation'という名が示す通り、やっぱり基本や基盤はあった方がいいよね! って考えたりしていました。
私が初めて出会ったマジック:ザ・ギャザリングの基本セットは第5版。
今でも覚えていますが、《髑髏カタパルト》が入っていて、めちゃくちゃこええじゃん、なんだこのカードゲーム、やめとこ。って思ったのを思い出しました。
それが今では……。
それはともかくとして、今回は『モダンホライゾン3』の伝説のクリーチャーを使用したデッキを紹介しますね。
前回、前説で「モダンホライゾン3が出ましたね」とか言っておきながら、『統率者レジェンド:バルダーズ・ゲートの戦い』のカードを紹介しているのを見て
「正気か、こいつ?」って自分で思ったからじゃないですよ! 本当だよ!!
そんな訳で、今回紹介するのは、《合体した非道、ウラレック》です。
エルドラージ解放! デッキリスト
エルドラージ解放! のキーカードたち
『戦乱のゼンディカー』当時、小粒ながらも様々な能力を持つエルドラージがたくさんデザインされました。
しかし、統率者戦で使われるエルドラージといえば、エルドラージ・タイタンと言われる伝説のエルドラージ3体が中心で、他の小型エルドラージは日の目を見る機会が少なかった印象です。
あるいは、色マナシンボルがコストに含まれているため、デッキに入れるためには、泣く泣く別の統率者にしなければならないのが現状でした。
しかし! 『モダンホライゾン3』でその風向きも変わりました!!
ついに現れた5色エルドラージ!
しかも、本人は「欠色」持ちだからもちろん無色扱い!
なんだかルールのことを考えていると頭が痛くなってくる!!
とはいえ、これで念願の小型エルドラージをデッキに入れて活躍させることができるぞ!! ということで私は大喜びでデッキを組みました。
それが《合体した非道、ウラレック》!!
ウラレック自体は、エルドラージ呪文をコピーする能力を持っているんですが、この能力が重要なわけではなくて、大切なのはやっぱり5色のエルドラージが使えるってところですね。
キーカードで紹介するのは、小型エルドラージを活躍させられるカードです。
《世慣れた見張り、デルニー》は、パワー2以下のクリーチャーが誘発させた能力をコピーすることできます。
「嚥下」能力、これが使いたかったんですよ。小型エルドラージが持っている相手のデッキを吹き飛ばす能力。これをコピーしてやりましょう。
1枚ずつ追放するところをいっぺんに2枚追放できます。やりましたね。
《まばゆい肉掻き》は、エルドラージデッキとの相性がめちゃくちゃ良いです。エルドラージを使うならとりあえず入れておきましょう。
小型エルドラージを出せば、ダメージを与えつつ、《エルドラージの落とし子》を出してマナ加速にもなります。
そして、《血統の観察者》と《変位エルドラージ》のコンボに組み込むことでフィニッシュに持っていくことも可能です。
そして、《ウルザの空戦艇、リベレーター号》。
なんで入っているのかと言うと、実は《跳ね回るシケイダ》を入れようと思っていたんですよ。
しかし、ほぼ同等の能力が「リベレーター号」で得られるじゃないですか。しかも、エルドラージが手薄になりがちな飛行に対する防御にも向いている。
ピッタリはまったなと思い、リベレーター号にしておきました。非常に強いです。
そして、フィニッシュ級のエルドラージ3体!
《再誕世界、エムラクール》はクリーチャーを横に並べて膠着した盤面になったときに通すことができれば、本当にあっさりフィニッシュへ持っていけます。
全体除去が割と飛んできがちな統率者戦でも、後半になると膠着盤面が生まれやすいです。
そんなときに通すと本当に気持ちよくなれます。
《不和の連れ合い》は、小型エルドラージを通すのにすごく良いです。
《合体した非道、ウラレック》の能力でコピーすると、偶数のコストをもつクリーチャーも、奇数のコストを持つクリーチャーもブロック不可にすることができます。
まあ、そんなにマナがあるなら別の方法で勝つこともありますが、クリーチャー戦でしか得られない栄養がありますからね。
《崩壊した現実、コジレック》は、割とどのタイミングで出しても使い勝手の良いエルドラージ・タイタンです。
最大2人を対象に手札破壊ができるのが特に良いですね。
あとは、自分の小型エルドラージを強くしてくれるのもいいです。
ただ、強くしてしまってデルニーの能力が使えなくなったりするのも気をつけてください。
盤面をみながら、どのクリーチャーでフィニッシュするのか考えるのも楽しいデッキになりました。
ぜひ、組んでみてください。
終わりに
今回は、《合体した非道、ウラレック》のデッキを紹介させていただきました。
エルドラージ関連のストーリーはほとんど決着してしまったものの、こうして新しいエルドラージが供給されるのは嬉しいですね。
いい感じに禍々しいデザインのイラストが見られるのも個人的には大変グッドです。
モダンホライゾン3も、ファウンデーションズでも、新しい伝説のクリーチャーが増えました。
自分のお気に入りの統率者を見つけて、どんどん新しいデッキを組んでいきましょう。
それではまた、「統率者をめぐる冒険」でお会いいたしましょう。