闇と陰謀の渦巻く街へ
「辺境の砦」の続きとなっています。
是非、前回の記事も読んでみてください。
夜闇に紛れて砦を抜け出した者たちがいた。
僅かな星明りのみが道標となって、かすかに残る希望へとひた走らせる。
皮鎧のこすれる幽かな音が、森の中のさざめきの中に紛れていた。
いや、森の中といえども、敵軍の野営が明かりとなってところどころ、照らし出していた。
道行きの調査はろくにできず、ほとんど賭けといっていい状況が続いていたが
森を抜け、大きな街道へ出られたとき、やっと安堵のため息を吐き出すことができた。
行き先はバルダーズ・ゲート。
陸と海とをつなぎ、貴族も、難民も飲み込む、大都会であった。
ディサンパー砦が謎の軍勢に囲まれて1週間、砦の大将たるシトリックス子爵は防戦を続けるなかにあって、事態を打開すべく、手勢の中から身軽なものを中心に、救援を求める一団を編成した。
まず砦を抜け出したことは重畳、だとしても、本当の戦いはこれからだとも言えた。
門外地域の中にある冒険者の店、大体は居酒屋を兼ねており、冒険者だけでなく、
その地域に住んでいる者たちも集う憩いの場、そこへ一団は身を寄せた。
一行のリーダーはカニエ・バンサというヒューマン。
シトリックス子爵の右腕と言われ、砦の運営にも辣腕を奮っていた騎士である。
運ばれてきたエール(ビールの一種)を眺めながら、仲間たちの顔を見渡した。
明るい表情をしている暇は、誰の頭の中にもなかった。
この中で唯一、盗賊上がりの密偵であるハーフリングのホウ・アンだけが涼しげな顔でエールを舐めている。
「ホウ、お前だけが次の手を思いついていそうだな」
カニエがエールのジョッキをホウ・アンの方へ押しやりながら話し始めた。
「へえ、そうですね……。もしバルダーズ・ゲートを動かすなら、この街、この国を牛耳る四公会議へ直談判しなけりゃなりませんが……何しろ我らはエルターガルドの人間。四公会議への直接のコネも、顔を繋いでくれる貴族のツテもありません」
「それでは、なんとする」
「しかしまあ、コネというのはどこにでもあるもの、というか、あっしは元盗賊。蛇の道は蛇、盗賊の知り合いは盗賊と相場が決まってまさぁ。バルダーズ・ゲートの大盗賊と言えば、九本指のキーネ、まずはコイツと接触することを目指します」
「道理だな」
カニエは、固くなっているパンをちぎりながら言った。
「それで、軍資金はどれぐらいありますんで?」
カニエはホウに革袋の中身を見せる。ホウはそれを数秒見つめてからまたジョッキを傾けた。
「ソイツを元手にキーネを釣り出します。あっしにおまかせください」
「次のカードは……。レッド・ドラゴンの13! これであっしの勝ちですぜ」
タバコの煙と、香水の匂い、そしてワインの香り。
すべてが混ざり合い、ヴェールのように覆い隠すそのホールで、ホウはカードゲームに興じていた。
いや、それはドラゴン・レイアーと呼ばれるカジノゲームだ。
身体にピッタリと合うチョッキを着たディーラーはしかめっ面でコインをホウへと押し出す。
ホウの前には山のようにカジノコインが積み上げられていた。
「へっへっへ、これで向こう数ヶ月は遊んで暮らせるな」
聞きたくなくても聞こえる大声で快哉を叫ぶホウ。周りの客も迷惑そうな視線を隠したりはしなかった。
「じゃあ、そろそろ、お開きにしますかね」
テーブルのコインをすべて集めたホウが立ち上がる。
そして、コイン・カウンターへと歩き始めたところに二人の黒服がピッタリとくっついてきた。
ハーフ・オーガと、ゴライアスか。
たくさんの来客があるホールの中にあってもとりわけ目立つ。
「お客様。本日はおめでとうございます」
オーガの黒服が低い声でホウへ話しかけてくる。
ホウが視線を向けるとソイツは続けた。
「支配人が、お祝いを申し上げたいということでございます。是非こちらへ」
そう言いながら腕を掴んでくる。
ホウはしかめっ面をしながらも、オーガの黒服へと返答した。
「お断りしても無駄ってんだろ……。分かったよ。行くから手を離してくれ」
黒服は腰を折り、それではこちらへ、とホウを先導した。後ろにはゴライアスの黒服がつく。
垂れ込める煙のヴェールの中を進んでいく。
「で? なんでエルターガルドの狂風と言われた伝説の盗賊がアタシの前にいるわけ?」
ソファにどっかりと座ったキーネが連れてきたオーガへと訊く。
「荒稼ぎしてる者がいると報告さしあげましたら、連れてこいと申しましたのはお館様ですが……」
「アタシはねえ、どうせ小者がつまんないイカサマで稼いでんだろう、アタシのシマって知っててやってんのか、ってちょっと遊んでやろうと思ったワケ。それがどうしてこんな大物がかかっちゃってんの?」
「い、いや、私は……」
葉巻の煙を吐き出しながらキーネが黒服にクダを巻いている。
キーネ自身は本当にうんざりしたような表情でホウを見ていた。
「そう俺のことを邪険にすんじゃねえよ、九本指さんよ」
「ケッ、アタシのことはキーネ様と呼びな。それで、なんでつまんないイカサマで荒稼ぎしてたワケ……」
テーブルの上のグラスを持ち上げながらキーネは訊いた。
ホウが口を開こうとしたその瞬間に、キーネは眼を見開く。
「最初からアタシ狙いか」
「ご明察」
ホウは少し楽しそうな表情で応えた。キーネは胡散臭げな顔でグラスの酒を煽る。
「そんで、つまんない小細工を使ってまでアタシに会おうとしたのはなんでだ」
「四公会議に渡りをつけてほしい」
「不可解だな、アンタみたいなエルターガルドの胡散臭いヤツが四公会議に用事があるとは思えないけど」
「その先は私から説明させてもらおう」
ドアを開けて、カニエが入ってきた。
「なんで、ここにそんなホイホイ入ってこられるわけ……。ハァー、もういいわ。それで?」
「私はディサンパー砦で副官をしているバンサ騎士爵。バルダーズ・ゲートに助力を求めるために参った」
キーネはつまらなさそうな顔で話を聞いていた。テーブルの上にあるグラスに酒を注ぐ。
「バルダーズ・ゲートの四公会議がわざわざエルターガルドの人間の頼みを聞くとは思えないけど。それにアタシだってホイホイ変なヤツをつなぐワケないでしょ」
「バルダーズ・ゲートとして四公会議が動かずとも、我らの陥っている事態に興味がある人間はいると思うのだが?」
「そいつを話してみな」
「ディサンパー砦は謎の敵に囲まれている。そいつらは大規模で、攻城戦の真っ最中だ」
「なるほど、それで困ってここに来たわけか」
「我らも事態を打開したいが……相手が謎の敵である、というこの点が重要ではないかな」
「……」
キーネは黙って考えているようだ。グラスの中身をじっと見つめている。
「我らは脱出できればいい、結果的にそいつらがどうなっても構わない、ということだ」
「……分かった」
グラスをテーブルに置く。
「しかし、アタシにはアンタたちを紹介する旨味っての? そういうのが無い」
ホウがカニエに視線を向ける。カニエは静かに頷いた。
ホウがポーチへ手を突っ込む。黒服がにわかに浮足立った。
キーネが黒服たちを手で制する。ホウは気にせずにポーチからテーブルの上に取り出したものを置いた。
「魔法障鉱石だ。アンタ、これをかき集めてるんだってな?」
「これっぽちでなんとかしようと思ってるのかい」
キーネが鉱石を持ち上げながら訊く。
「ディサンパー砦に残されている坑道、この奥にまだ鉱石は眠っている。エルターガルドでは使いみちが見つけられなかったんでな」
キーネは鉱石をテーブルに置き、前に顔を出しながら訊いた。
「ソイツをくれるっていうのかい?」
「掘り出すのは自分でやってくれ。俺達は場所を教えるだけだ」
ソファの上で大きく伸びをすると、キーネは立ち上がった。
「フン、癪だが、繋いでやろうじゃないか。四公会議全員は無理だが、この話、聞きたいヤツに心当たりがある。また明日の夜に来な」
カニエとホウは顔を見合わせて口の端をわずかに上げるのだった。
〈続く〉
冒険者たち(統率者構築デッキ)
みなさん、こんにちは。
「モダンホライゾン3」も発売になってますます盛り上がってきているマジック・ザ・ギャザリング!
モダンの新しいデッキも組みたくなってきますが、気になるのはやっぱり統率者戦への影響ですよね。
《有翼の叡智、ナドゥ》の強力さに騒然としている統率者界隈ですが、私が気になっているのは《苛立たしいガラクタ》。
別に統率者ピッチスペルに無茶苦茶やられたからとかじゃないです、全然そんなんじゃないです!!
それでなくても楽しいカードが目白押しの「モダンホライゾン3」ですが……。
楽しいカード……? 楽しいカードといえば、そう! 「統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い」だよね。
そんなバルダーズ・ゲートの戦いから今回は冒険者リーダー《ナリア・デアルニス》です!
デッキリスト
冒険者たちのキーカードたち
さて、TRPGがテーマの「バルダーズ・ゲートの戦い」ですから、一度は冒険者パーティデッキを組みたいと思っておりました。
そして、統率者として向いているのは、《ナリア・デアルニス》であろうと!
ずっとテーマを温めて! 孵して! 空へと旅立って!! しばらく帰ってこなかった!!
のですが、今回、改めてデッキ構築をしてみました!!
そして、キーカードたちはもちろん、【パーティー】がキーワード。
「戦士」「ウィザード」「クレリック」「ならず者」を1つのパーティーとして扱うこの摩訶不思議なキーワード能力を存分に活かしていきたい!
そして、ナリアの能力でデッキトップからどんどん戦力を供給したい! ということで、クリーチャー・タイプもこの4種を厳選しました。
パーティの穴埋めをしてくれるとともに、《宝物》トークンでマナ供給をどんどん行ってくれる《パーティーの隊長、ブラコス》にどかっとパーティメンバー勧誘を行ってくれる《ハーパーの勧誘者》。
そして、自分の盤面を有利にしながら、相手の盤面をガタつかせてくれること間違いなしの《団結》。
これらのパーティーに関するカードで盤面を支配していきましょう!!
そして、「実は戦士じゃん」ということで今回のデッキにもリクルートされた《ゴライオンの養子、アブデル・エイドリアン》。
前には統率者を張るほどのパワーを秘めていましたが、今回はパーティーメンバーとして活躍してもらおうと、メインデッキ入りです。
そして、まあ彼が入るなら&色が合ってるしということで、ゴージャー・コンボのお供として《動く死体》と《修復の天使》を入れておきました!
パーティーメンバーを供給して戦えるこのデッキですが、フィニッシュブローが弱く、膠着しがちになるので、最後はこのゴージャー・コンボなどを目指してみてはいかがでしょうか。
このコンボを入れながらもリアニメイトこわいと言って《安らかなる眠り》もデッキに入っているアンビバレンツ編成になっているので、この辺りは是非お好みで調整してみてください。
終わりに
今回は《ナリア・デアルニス》を使ったデッキを紹介させていただきました。
パーティーメンバーのクリーチャータイプって、案外新しいエキスパンションでも追加になっていなかったりするんですよね。
「ブルームバロウ」で追加になるといいな、などと楽しみにしております。
ナリアもデッキトップから直接、メンバーを供給できるのはいいのですが
色が白と黒だけというところで、個人的にはもう1色足して3色統率者だったら、また違うテイストで楽しかったかもしれないなあなどと思っています。
冒険者パーティーというコンセプトなら、5色統率者を使って構築しても面白いと思いますので、ぜひ挑戦してみてください。
《団結の標、タズリ》なんかがオススメ統率者です。
それではまた、「統率者をめぐる冒険」でお会いいたしましょう。