外道の中に真理がある事もある
外道の先も見てみよう
マジック・ザ・ギャザリングのモダンフォーマットにおいて、かつて常識を覆す戦術をとるデッキが誕生した。
そのデッキの名はSuper Crazy Zoo(略してSCZ)。
本来は対戦相手のライフや手札を詰めるカードを自分に対して使うという、前代未聞の戦術をとるデッキであった。
衝撃のデビューから瞬く間に世界へ広まり、その中から禁止カードすら輩出するという実績まで残す偉業を成し遂げた。
パーツを落とされた今なお、キーカードの<<死の影/Death's Shadow>>の名から「死の影」「デスシャドウ」の名を持つアーキタイプは存在し続けている。それほどのデッキなのである。
本来は全く別のコンセプトで組み上げていたデッキであったが、やがて数奇な運命をたどり、一つのアーキタイプとして落ち着いたこのデッキの開発秘話は、是非とも一読いただきたいものだ。
このデッキの制作者は、今はコロコロオンラインで”デュエマ妄想構築録”を連載している、まつがん氏である。
天才的な閃きと、卓越したデッキ構築能力は、マジックだけでなくデュエマでも発揮されていると言っても過言ではない。
何せ、デュエマのデビュー作が”クレイジーバルチュリス”なのだ。相変わらずのクレイジーさである。
そんな彼が、今回の最新弾「ヒーローズ・ダークサイド・パック 闇のキリフダたち」でピックアップしデッキを組み上げたカードが、これだ。
《魔獣星樹ギガゲドー》
キマイラ/スターライト・ツリーという、デュエル・マスターズ黎明期の2種族を併せ持つクリーチャーだ。
だが、特筆すべき点は、そこではない。
なんと、自分のクリーチャー(自身を含む)が出た時、自分のシールドを1枚、手札に加える事が出来るのだ。
一見すると自分の命を削る暴挙だが、クリーチャーを出しても手札が減らないという点で見れば、大きなメリットにもなり得る。
しかし、当然、普通に使えば命を削るだけに過ぎない。
そのうえ、このクリーチャーは相手プレイヤーを攻撃できないため、攻め手にもならない。
故にコンボパーツとして運用し、強力な一撃を叩き込むために使う手段となるだろう。
妄想構築録では、《至宝を奪う月のロンリネス》と組み合わせ、オシオキムーンとのコンボで相手を攻め立てるデッキを紹介していた。
確かに、《魔獣星樹ギガゲドー》は、オシオキムーンと抜群の相性を誇る。
特に、クリーチャーを踏み倒す事が出来る《ロンリネス》との組み合わせは強力無比な組み合わせだ。
さすが、と言いたいところだが、このデッキには弱点がある。
このデッキのコンボを成立させるには、まず《ギガゲドー》を出した状態で《ロンリネス》着地を目指す必要があるのだ。
要するに《ギガゲドー》が生き残る前提での動きとなるのである。
そのうえ、《ギガゲドー》依存のコンボであるため、引き込めない場合の動きが非常に緩慢なものになってしまう。
大抵のコンボデッキに当てはまる共通の弱点ではあるが、この点を解決し、更なる高みへもっていく道が何か無いか、と思ってしまうのだ。
そう、道だ。
それこそ、このクリーチャーの指し示すような”外道”の先すら、模索してみる必要があるのかもしれない。
という訳で今回は、この《魔獣星樹ギガゲドー》の別の使い道を探してみることにしよう。
未知なる道の先
《魔獣星樹ギガゲドー》を使ううえで、まず除外すべき特徴は、その種族だ。
大抵、カードの使い方を考える際、そのカードが持つ種族を考慮に入れる事は多い。
さりげなく持っていた種族が、実は意外なサポートを受けていた、という事はよくある事だ。
特に、ディスペクターに関しては、この要素が強かった。
過去に主人公・悪役の切札であったカードが多かったことから、過去のそれらをサポートしていたカードとのシナジーを形成する事が多かったのだ。
そういった点で見ると、《ギガゲドー》が持っている種族はキマイラとスターライト・ツリーだ。
これは、いずれも専用のサポートをほとんど受けていない種族である。
また、キマイラは進化クリーチャーが存在しているものの、スターライト・ツリーには進化クリーチャーすら存在しない。
キマイラの進化クリーチャーも、このカードとの相性が良いかというと、全くそういう訳では無い。
そのため、種族を活かすという使い方は、真っ先に除外されてしまうのだ。
そういうわけで、このカードが持つ能力に焦点を当てていく必要がある。
このクリーチャーの能力は、先にも述べた通り、自軍クリーチャー全員を《福々人形コダマンマ》のように、出た時にシールド1枚を手札に加えられるというもの。
シールド・トリガーこそ使えないものの、自分の命を削って手札リソースを確保する事が出来る。
他にも、《ギガゲドー》自身が破壊された時にシールドを1枚回復する事が出来る。
コストは3、パワーは5000と申し分ないが、相手プレイヤーを攻撃する事は出来ない。
以上の事から、やはりシールドを手札に加えるという点を利用して、コンボにつなげる運用方法が妥当だろう。
では、どういうカードと組み合わせるのが妥当だろうか。
妄想構築録では、オシオキムーンとの組み合わせをフィーチャーし、完成へと至っていた。
確かに、シールドが離れた時にトリガーする能力というのは、オシオキムーンの特徴だ。
しかし、シールドが離れたときにトリガーする能力は、オシオキムーンだけに存在する、という訳では無い。
昨年発売された”デュエキングMAX2022”に収録されていた《パルフェル・トリセラティ》や、光・闇・火のディスペクターにも、シールドが離れる事でトリガーする能力を持つクリーチャーが存在している。
オシオキムーンに拘らずとも、これらと組み合わせる道もあるのだ。
この中で大規模なコンボが可能になりそうなのは、《パルフェル・トリセラティ》だろう。
自分のシールドが離れると、コスト4以下の光のクリーチャーを手札から踏み倒す事が可能だ。
これを使えば、次々に光のクリーチャーを展開し、一気に打点を揃える事が可能だろう。
また、《パルフェル・トリセラティ》の能力で《ギガゲドー》を踏み倒すという事も可能なので、このあたりの噛み合いも非常に良い。
何かしら、自分のシールドに干渉出来る術を用意しておけば、《パルフェル・トリセラティ》から《ギガゲドー》を踏み倒してコンボスタート、という事が可能なのだ。
それで、この基盤を使ってデッキを組んでみる事にした。
試作デッキ
結論から言うと、微塵もうまく回らなかった。
当然と言えば当然なのだが、キーカードを引き込む手段が《未来設計図》しか無いため、手札にパーツを揃えるのも一苦労だ。
そのうえ、《ギガゲドー》を先に出しておく必要があるという点を解消できていない。
このデッキの収穫と言えば《パルフェル・トリセラティ》+《HEAVEN・キッド》2枚で超耐久が保証出来るくらいだ。
一応デッキの動きを解説しておくと、打点を並べて《リリアング》から《ダイヤモンド・ソード》で奇襲を仕掛けるというものだ。
当然《ダイヤモンド・ソード》は気合で引き当てるしかない。日ごろの行いが試されるので、常に善行を心がけよう。
もっとも、そんな運に偏り過ぎたデッキでは、あまり良い案だとは言えない。
このデッキの教訓は、このコンボは大量の連鎖は期待できない、という事だ。
手札の確保が難しいため、シールドから踏み倒せるクリーチャーを常に引き当て続ける必要がある。
そのうえ、踏み倒せる回数にも、シールド枚数という限界値がある。
シールドを増やして踏み倒し回数を増やそうにも、デッキ構築を寄せる必要があるため、構築の自由度が低くなり、かといって確実に相手を仕留められるわけでも無い。
むしろ、途中でコンボが途切れてしまい、中途半端な打点とボロボロになったシールドが残るだけ、という事の方が多かった。
自然ではなく水文明を入れるというアプローチも考えたが、コンボ起動までの遅さと、手札を整えるカードを増やす事で踏み倒せるクリーチャーの数が減るという本末転倒な事になったので、これも没案である。
こうなったら、また白紙からスタートである。コンセプトを最初から考え直そう。
とはいえ、シールドが離れるという能力と相性の良いカードを探す、という点は変わらない。
さすがに、ここを変えるアプローチは無いだろう。
上でも述べたが、シールドが離れる事でトリガーする能力を持つクリーチャーは、他にも存在する。
次は、ディスペクターを探してみよう。
光・闇・火のディスペクターには、《聖魔連結王ドルファディロム》のような、シールドが離れる事でトリガーする能力を持つディスペクターが多く存在する。
もしかしたら、この中に抜群の相性を発揮するクリーチャーが居るのでは?
そう思って探してみたところ、確かに相性の良さそうなディスペクターは存在していた。
それこそが、《真邪連結バウ・M・ロマイオン》だ。
この名前、発音では覚えてても、実際に文字で打つ際に「・」で区切る場所が思い出せなくなる。
「・M・」が顔に見える、と覚えておこう。
出した時、対戦相手の顔がこんな感じになる。
そんな事はさておき、このクリーチャーは、自身のEXライフシールドが離れた時、そして攻撃するときに、手札からコスト8以下の呪文を唱える事を可能にしてくれる。
そして、出た時に呪文を2枚まで、墓地から拾う事まで可能だ。
さて、このコンボの解決すべき点として、あらかじめ《ギガゲドー》を出しておく必要があるという事を述べていた。
《バウ・M・ロマイオン》と《ギガゲドー》を同時に出す方法があれば、このデッキは一気に成功率が高くなるはずだ。
とはいえ、《バウ・M・ロマイオン》はコスト8である。《ギガゲドー》と合わせて出すには、11マナという膨大なマナが必要だ。
当然、そんなマナを愚直に溜める気は全くない。
では、どうするか。そこで、この2体の共通する部分に注目していただきたい。
聡明な皆様ならお分かりだろう。そう、2体とも光のブロッカーなのだ。
要するに
天国の門を開いてやれば良いのだ。
これで、《バウ・M・ロマイオン》と《ギガゲドー》を同時に踏み倒し、即座に《バウ・M・ロマイオン》の能力をトリガーさせる事が可能となった。
それにしてもこの2体、天国とは全く無縁そうな見た目なのだが、本当に天国の門から出て大丈夫なのだろうか。
次に考えるべきは、何を唱えるか、だ。
このコンボは、あくまで起点に過ぎない。ここからどんな呪文を唱えるか、が重要だ。
コスト8以下の呪文という括りになると、膨大な数のカードが存在する。その中から、このコンボと最も相性の良い呪文を探す必要がある。
どうせなら、このまま即座に攻撃の体制を整え、一気に攻め込みたい。ついでに《バウ・M・ロマイオン》の能力を再びトリガーさせられるので、更なる追撃も可能になるはずだ。
そんな考えを実現できるカードとしては、下の2枚がある。
この2種類なら、並べた打点を即座に攻撃に向かわせる事が可能となる。
特に《瞬閃と疾駆と双撃の決断》は、《バウ・M・ロマイオン》をスピードアタッカー化させつつ2回攻撃まで可能にさせる、抜群の相性だと言えるだろう。
《ダイヤモンド・ソード》も、本来攻撃できないはずの《ギガゲドー》を攻撃可能にするといった事も可能である。
いずれも強力なのだが、まだ一歩足りない。
《瞬閃と疾駆と双撃の決断》でも、精々、相手のシールドを0まで追い込むのが限界である。
当然、2回目の攻撃で追撃が可能なクリーチャーを繰り出せる呪文を唱えれば話は別だが、そこまで手札が揃うだろうか。
となると、解決すべき問題は、いかにして《ギガゲドー》を打点として組み込めるか、だ。
この課題を解決すると、一撃必殺のコンボが完成するような気がする。
が、これは非常に難しい問題だ。
仮に《ギガゲドー》を進化させて打点にするとしても、進化クリーチャー+それを踏み倒すカード、といった2枚ものコンボパーツが追加で必要となってくる。
さすがに、この枚数のコンボパーツを揃えるのは至難の業だ。
では、《ギガゲドー》を攻撃可能にしたうえで、打点を増強する方法はどうだろうか?
もちろん、これも2枚のカードが必要になってくるだろうから、現実的では無いだろう。
惜しいところまでデッキが出来ているのだが、ここで《ギガゲドー》の攻撃性能の低さが足を引っ張りまくってきた。
何とかして《ギガゲドー》にやる気を出してもらい、Wブレイカーくらいに成長して欲しいものである。
この課題を解決する方法が無いかと試行錯誤していたとき、全く別のアプローチが存在する事に気が付いた。
そのアプローチとは、《ギガゲドー》を強化するのではなく、別の強力なクリーチャーを経由して《ギガゲドー》を出す、という方法だ。
これであれば《バウ・M・ロマイオン》+何か強力なクリーチャー+《ギガゲドー》という盤面となるため、一撃必殺の可能性は大きく跳ね上がるだろう。
さて、そんな便利なクリーチャーがデュエル・マスターズに存在しているのか? そう思った人も多いだろう。
私もそう思っていたのだが、その答えはデジタルの世界、つまりデュエル・マスターズ・プレイスの世界にあった。
その答えが、《連珠の精霊アガピトス》だ。
このクリーチャーは光のブロッカーでありながら、デッキから《ギガゲドー》を呼び出す事が出来るという能力を有している。
デュエル・マスターズ・プレイスでは、一時はトップメタを担うほど強力な存在であったため、知っている人も居るだろう。
《ヘブンズ・ゲート》で、このクリーチャーと《バウ・M・ロマイオン》を呼び出し、デッキから《ギガゲドー》をバトルゾーンへと送り込むと、途端に強力な打点を形成する事が可能となる。
あとは、これらを即座に攻撃へと向かわせるギミックを搭載すれば、万事解決だ。
ここで《瞬閃と疾駆と双撃の決断》を使っても良いのだが、せっかくだから、もっと別の、汎用性の高いパーツで実現が可能かどうかを検討してみたいと思う。
確かに《瞬閃と疾駆と双撃の決断》は強力だが、これ単体では何も出来ないカードだ。
それに、今回のデッキは《ヘブンズ・ゲート》を使う関係上、コスト踏み倒しのモードを使う事はあまり無いだろう。
もっと、色々な場面で活用できて、かつ自軍全員をスピードアタッカーにするカードがあれば、このデッキは完成するはずだ。
その答えだが、かなり最近のカードの中に、これを実現するカードが存在している。
それが、《超次元パンドラ・ホール》である。
これで何を出すのかというと、みんな大好き《次元のスカイ・ジェット》だ。
《パンドラ・ホール》は、超次元ゾーンからコスト5以下のカードを出す事が可能、つまりクロスギアもクリーチャーも出す事が可能、という事である。
全体をスピードアタッカーにしつつ、2回目に唱えた時はクリーチャーを送り込んで追撃を送り込む事も出来る、今回のコンボと相性抜群のカードなのである。
困難に見えた一撃必殺コンボが、ついに完成した。というわけで、形にしてみよう。
デッキリスト
【メイン(40枚)】
【超次元ゾーン(8枚)】
終わりに
もともと変なデッキを作るのが好きだった私が、より積極的にデッキ制作に意欲的になったきっかけは、冒頭で紹介したSuper Crazy Zooの記事であった。
元は別のカードをフィーチャーして作られたデッキが、数奇な運命を経て、別の、しかし完全なる完成を遂げるその物語は、私に強烈すぎるインパクトを与えたものだ。
デッキを作り続ければ、いつか、そんな”当たり”を引く事があるのかもしれない。
そう思った事が、今に繋がっている。
いつか”デュエマ界のまつがん”と言われるレベルに到達したい。そう思っていた時期もあった。
いや、まさか本人が来るとは思わんやん??????
同じ土俵に来るとは思わなかった。
そんな運命もあるんだなぁ、と思ったのも数年前の出来事である。
世界が広がれば、見えてくるものも多く、世の中にはまだまだ、天才的な発想や着眼点を持つビルダーが無数に存在している。
別に勝負する訳では無いのだが、やはり、どこかで思ってしまうのだ。
そんな天才たちを上回り、自分だけのオリジナルを送り出したい、と。