遊戯王のモデルとなったエジプトの神々
■はじめに
はじめまして、もしくはこんにちは。 カニ丸です!
昨年も触れた内容ですが、約100年前の1922年2月28日はイギリスからエジプト王国が独立した「エジプト王国独立(エジプト革命)」の日です。
なので今回も、「遊☆戯☆王」(原作・高橋和希)ならびに遊戯王OCGにおいて、深くつながりのあるエジプトの文明について触れていきたいと思います。
前回はエジプトをモチーフにしたテーマをご紹介した内容なので、そちらもご興味ある方は合わせてどうぞ!
前回【エジプト特集! この機会に少し触れてみませんか?】
■遊戯王の紆余曲折
ところで、「遊☆戯☆王」にとってエジプトとはどういうつながりだったかご存知ですか?
遊戯王OCGが人気になる以前は様々なゲームを通して、主人公・《武藤遊戯》に秘められた不思議な闇の番人こと《闇遊戯》が人間の欲望や不正を暴き、闇のゲームによって制裁を加えるというシナリオでした。
古代エジプトの不思議なアイテムとして「千年パズル」は活躍しましたし、関係者としてシャーディーは早い段階で登場します。
しかしながら、その「エジプト」としての要素は大きな意味合いを持ってはいませんでした。
初期の敵対者といえば、同じ学校の暴力的な生徒や教師、《海馬》や木馬、町の不良、不正を働く大人、犯罪者、約束を破る不届き者など
《遊戯》の周囲を取り囲む環境は一般的に考えられる男子高校生の日常より治安が悪くやや過激で、それが良い刺激となって物語の悪役たちを引き立てていきます。
シャーディーの登場以降、ようやく現れた「千年アイテム」の所持者・獏良了(ばくら りょう)が登場しても尚、古代エジプトの不思議なアイテムという程度の存在感だったと言えるでしょう。
皆さんがよくご存知の遊戯王OCGこと「マジック&ウィザーズ(原作作中名)」に再び大きくスポットが当たるのはこの戦いが終わった後、《ペガサス》の登場からでした。
「遊☆戯☆王」の危機
「遊☆戯☆王」にとって「マジック&ウィザーズ」は作品の一部にすぎず、「遊戯(遊び)」の「王」として話を進めていく中で、ひとつのゲームだけにスポットが当たらないよう高橋先生もこだわっていらっしゃったことがうかがえます。
ですが、当時連載漫画としての立場上どうしても直面する問題がありました。
それは「打ち切り」です。
シャーディーによってもたらされた物語の主軸たる古代エジプトに触れたシナリオは、不本意ながら、人気漫画「遊☆戯☆王」をも瀬戸際に追い込むこととなります。
今まで「遊☆戯☆王」を楽しんでいた読者からすれば、急な物語の方向転換に思われたのかもしれません。
週刊少年ジャンプは読者投票が重要視される雑誌でもありましたので、この問題は想像以上に恐ろしいものでした。
そのため、かつて《海馬》が登場し「マジック&ウィザーズ」が取り上げられた回が人気を博していたこともあり、問題解決を賭け、物語に再び「マジック&ウィザーズ」が活躍することとなります。
いわゆる「DEATH-T編」と呼ばれるシナリオです。
過去の記事でも触れた内容ですが、後に運命のライバルであり「遊戯王の顔」のような存在となる《海馬瀬人》がこうして成り立ったのでした。
「DEATH-T編」はここまでの漫画「遊☆戯☆王」とコンセプトを同じくし、「マジック&ウィザーズ」だけでなく様々なゲームが登場していました。
かの有名な本田くんの上着が壁に挟まって脱落するシーンはこの「DEATH-T編」です。
あのシーンばかり有名になってしまったので補足を入れますが、四角い重量のあるブロックが天井から落下していく中で、押しつぶされないよう逃げながら「俺はいいから先に行け」と促す命がけのシーンなので、本来はかなり緊迫した場面となります。
※「DEATH-T編」は命がけのゲームがコンセプトだったため、本来ならば本田くんはここで死亡していた可能性がありました。
かくして「DEATH-T編」により、再び「遊☆戯☆王」は人気漫画へと返り咲き、やがてアニメ化へと繋がることになります。
この「DEATH-T編」の後に先ほど話題に上がった獏良が登場しますが、そちらは読者人気投票結果としては良くなかったそうで、この両者の結果をきっかけに現在でいうところの「王国編」のシナリオが誕生したようです。
遊戯王OCGこと「マジック&ウィザーズ」が物語の中心となり、謎の千年アイテム所持者・ペガサスはもちろん直前に登場した獏良も再登場することで「遊☆戯☆王」は安定し、のちの「バトル・シティ編」などに繋がっていく地盤となりました。
■エジプト神話をたどる
原作者であった高橋和希先生のエジプトに対する興味は衰えることなく、「バトル・シティ編」以降はより深くその文明に対する情熱がシナリオにかかわっていきます。
以前の記事にて、《闇遊戯》こと「アテム」のモデルが「ツタンカーメン」にあるというお話はさせていただきました。
「アテム」の元ネタと言われている神々
神話の内容は主に現人神である「ホルス神」が自分の父親を殺害し、王座を奪った叔父の「セト神」から王位を取り戻すというお話になります。
「ホルス」と言えば遊戯王OCGでは皆さんご存知でしょう。
頭がハヤブサの半神とされていて、現行の王であるファラオを指すとされています。
ちなみに「ウジャト眼」はこの神の左目を指し、現代では魔除け、護符などの意味合いを持って装飾品に使われることもあります。
全てを見通す目、癒しの象徴としても有名で、かの「ツタンカーメン」のミイラにはこれを模した胸飾りがあるのだとか。
余談ですが、リシドが使用した「ウジャト眼の念力」というカードがあるのですが、それはまだ遊戯王OCGにはなっていません。
いつかカード化するのはかわかりませんが、昨今の流れからすると、そう遠くない未来で見られるかもしれませんね。
エジプト神話には独特の考えがあり、魂は永遠だという思想があります。
このことから、神の子である王は現人神とあがめられ、亡くなったときは魂の抜けた一時的な眠りのために体を保存する目的でミイラを作ったとされています。
これはエジプトの最高神は太陽神・ラーだとされていますが、その子孫がファラオであるという考えのためです。
ただし、エジプト神話は習合(様々なものが同一視される現象)によってラーやホルス、ホルスの父親であるオシリスなどの境界があいまいになっているものもありますので注意が必要です。
ラーは「アテン神」や「アメン神」と習合されたこともあるため、その度に様々な呼称になってゆきました。
その中の一つに「ラー・ホルアクティ」というものがあります。
これこそホルス神との習合によるもので、遊戯王をある程度ご存知の方なら一度は聞いたことがあるあの《ホルアクティ》の元となった神様です。
「遊☆戯☆王」では三幻神を束ねることによって登場する最強の存在ですね。
ラーと一時的ではありますが、習合された神として「アテン神」の名があがることがあります。
この「アテン」こそが《闇遊戯》の本当の名前である「アテム」の元ネタであるという説があります。
ただし、よく似た名の「アメン神」という神も存在すること、歴史的な研究は常に新しい事実によってそれまでの定説が覆されることもあるため、原作者の高橋先生がどの時点の研究結果を参考にされたかはさだかではありません。
ツタンカーメンの時代と重なるのはアメンですが、名前の発音上アテンが元ネタとして有力なのではないかという考察が存在していました。
どちらも太陽や豊穣を示しますので、ラーとの融和性が高かったことも習合理由に挙げられることでしょう。
では、そのライバルである《海馬》はどうでしょうか。
《海馬》のフルネームは《海馬瀬人》(かいば せと)といいます。
エジプト神話には「セト神」という神様が登場するため、それが元になっているのではないかという説が有力です。
「セト神」はエジプト神話におけるいわゆる悪役です。
主人公とも称すべきホルス神からすれば叔父にあたります。
父・オシリスの弟にして、母・イシスの弟でもあります。
「あれ?」と思った方もいるでしょう。
エジプト神話は近親による婚姻が普通であるため、このセト神も妹であるネフティスと婚姻しています。
そのため、王族でもそういった近しい婚姻が繰り返されていたことが明らかになっているようです。
先ほど取り上げたツタンカーメンも三親等以内の近しい両親を持つことが現代の研究によって明かされました。
これが原因で長生きできなかったとされる説があるほど繰り返し行われたものであったという研究が進んでいます。
「セト神」は元々砂漠の神、戦争の神として慕われていました。
ラーを悪邪のアポピスから守る神ともされ、守護神としての一面も併せ持っています。
しかしながら、神々にも人気の波というか、政治的な理由などもあり、兄・オシリス神の人気が高まることを理由に悪役としてのエピソードができることになります。
戦争の神であるセト神を信仰した支配者が多ければファラオすらその名を冠した時代もありました。
逆に平和な時代が続けば戦争に対する嫌悪などから人気がなくなり、セト神の信仰が低くなれば、オシリス神やホルス神信仰などが高まった、といった感じです。
その過程の結果、兄を殺害することでエジプトを支配する神の座につくという物語が生まれました。
オシリスの体をバラバラにし、ナイル川に流すことで永遠の生命の神を冥界の神にしたてあげたお話でもあります。
オシリスの神としての権能を高めるために描かれた悪役のセトは、エジプトに争いを招き、オシリスの息子であるホルスの挙兵を促す結果となるのです。
戦いの末、父親を殺されたホルス神の復讐は成功し、父親を殺されたホルス神の復讐は成功し、セト神はひっそりとまた砂漠の神としての地位に戻ることになるのでした。
では《海馬瀬人》とここで比較してみましょう。
彼は前世において、アテムと深く関わりのある神官セトとして生きていました。
セトの父親は神官を束ねていたアクナディン(当時の千年眼の所有者)です。
アクナディンはアテムの父親であるアクエンアテン王の弟にあたります。
つまり、セトとアテムは親戚だということになります。
セトはアクナディンの隠し子でもあったため、その存在が王家の血筋であることを知る者は少なかったようで、アクナディン本人も成長するまでセトとは顔を合わせないようにしていたとのこと。
尊敬する兄と国のために家族も王家としての血筋も捨てたつもりでいたアクナディンですが、立派に成長した息子セトの姿を見てしまったがゆえに、王位を息子に渡したいという欲求から闇の大神官になってしまいます。
セトとアテムが王位を巡り争うことはありませんでしたが、セト神のエジプト神話が根底のモデルとして存在していることがうかがえますね。
■おわりに
エジプト神話では争ってしまったホルス神とセト神ですが、遊戯王における《闇遊戯》と《海馬》、「アテム」と「セト」の関係は単なる宿敵と表現するのは正直言うと難しいですよね。
「アテム」の死後、エジプトを復興させたのはおそらく神官セトに相違なく、また「名もなきファラオ」に繋がる道筋を残し、守り切ったのは墓守一族だけでなくこのセトであったこともまごうことなき真実だろうと思います。
このコラムを読まれて、この二人の関係性について新しい発見ができたなと感じていただけましたら幸いです。
冥界に渡ったアテムを追いかけてゆく劇場版の《海馬》の強い感情についてももう少し考察してみたくなるところではないでしょうか。
最後に余談ですが、「遊☆戯☆王」の連載最終話が誌面によって公開されたのは2004年3月8日発売の週刊少年ジャンプ2004年15号でした。
高橋先生が亡くなられてまだ1年にも満たない中ではありますが、これを機に是非「遊☆戯☆王」を読んでみて欲しい・・・!!
以上! カニ丸でした!