『ダスクモーン:戦慄の館』独占公式プレビュー「キャッチャー・アット・ザ・コリドー」
※本記事は『ダスクモーン:戦慄の館』の二次創作になります。
「アロー、こちらリサーチャーワン、聞こえてる? どうぞ」
「リサーチャーワン、こちら”麦畑”基地、ちゃんと聞こえてるわよ。どうぞ」
「オーケー。館の廊下は今の所、なんの変哲もないように見える。ナビによると、南……、南へ向かって進むわ、以上」
「リサーチャーワン、成果を期待する。幸運を」
壁にかけられたカンテラが照らす回廊をおずおずと女性が進んでいく。
その顔には仰々しいメガネがかけられ、画面がチカチカと光る箱を手に持っているようだ。
風変わりな服装の腰には、先程使われていた無線機がぶら下げられている。
彼女、リサーチャーワンは、あたりをゆっくりと見回すと、さっと回廊の奥へと進んでいく。
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「ジェニー。ジェニー・コートランド。貴女、選ばれたわ」
午後の……午後という概念があるならだが、ささやかなお茶の時間に現れた白衣の女性が出し抜けに言う。
ジェニーは、まじまじとその女性を上から下まですっかりと眺めた。
髪はセットしてあるようだけど、あちこち傷んでおり、ハードワークに従事していること
顔にシワはなく、年若いが、目の下のクマが取れない疲れを雄弁に物語っていること
そして、白衣のポケットに手を突っ込んで話す不遜な態度。
教導団と言われるコロニー……いわゆるセーフグループの中で指導的立場であることを示していた。
5つか、そのくらい下の、ともすれば妹とも言えるような女の子にそう言われたジェニーは、戸惑いを隠そうとしながら答える。
「ええと、選ばれて名誉に思います……。ところで、何に選ばれたのでしょう」
「Ma'amは要らないわ、私は科学班のリーダーで、アリス。よろしくジェニー」
差し出された手を恐る恐るジェニーは握った。
「ところで……」
「貴女もせっかちね。3つ数えるわ、3! 落ち着いた? とにかく詳しい話は基地で」
握られた手を引かれ、テーブルから引き離されたジェニーは、コロニーの中心へと引っ張って行かれる。
ガタリとドアが開かれ、いや、ドアはなく、積み上げられた木箱の間を抜けて、大きなテーブルのある空間へ連れてこられた。
テーブルの中心には、怪しげな機械が置かれている。怪しいわけではない、使い方が想像できないだけだ。
「ジェニー。こちら、教導団リーダーのフィリッペ。ええと、フィリッポ……まあいいわそんなこと。じゃあ、貴女の仕事について話しましょうか」
フィリッペと紹介された男性は、椅子から腰を浮かせかけ、バツの悪そうな顔をしてまた座り直した。
ジェニーとフィリッペはお互いに目だけで礼をする。
「この教導団の実情について話しましょう。教導団とかいうふざけた名前のついたこのセーフグループはこの不条理の掃き溜めみたいな館の中でなんとかこれまで生き延びて来たわ」
「ええ、教導団のリーダーシップのおかげです」
「お世辞なんて要らないわ、黙って聞いて。人が生きるにあたって必要なものは……? 基本的には食料、そして寝る場所、そして服。それらのリソースはどうやって得られているか。貴女、床から食べ物が出てくるのを見たことがある? 無いわよね、ということは床で育つってことじゃない」
「わかりますが、それがなにか私に関係しているの?」
アリスは、ジェニーが話している様子を見ながら、たっぷり時間をかけてマグカップからお茶を飲んだ。
「何も貴女に関係ないものがこの世界に、このダスクモーンにあるっていうの? すべてが貴女に関係している。食べるものも、着るものも、寝る場所も。ただ、これは有限であることを知らなければならない」
「有限?」
「当たり前でしょ。貴女、食事をしてトイレに行かないの? ああ、トイレだって見つけたものなのよ。おしりにかじりついてこないトイレを見つけるのって大変なの」
急におしりだなんて、という顔をしてアリスを見る。フィリッペも同じことを考えていたようで、驚いた顔をしてアリスを見ている。
「教導団は、生存圏の確保が主なミッションで、人々を保護しているのは……」
「人々を守り、この世界で生き抜くために必要なものを集め、配り、館と戦う。それが教導団の存在意義だ」
「だそうよ」
フィリッペがやっと口を開いたが、すぐアリスに先を続けるように促す。
「いずれにしても、生存圏は常に脅かされている。食料も、その他リソースも、全く足りないわけ。じゃあどうするか。分捕ってくるのよ。この世界から、館からね」
「だんだん、わかってきた」
「今までの流れでわからなかったの? 想像以上……いいわ、貴女はとにかく選ばれた。分捕り係、レイダー、アウトロー、なんでもいいわとにかく、この館で生きるためのすべての根源、リソース係よ」
「なんで私が……」
ジェニーは戸惑いをやはり隠せない。
食事を作り、負傷者の手当をし、なんとか今まで生きてきた。目立つことのない人生。その自負が彼女の中にはある。
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「ジェニー、いい? これは貴女の命綱よ。このフリークス・サーチャーが壊れたとき、貴女は怪物に恐怖を与えられるだけ与えられ、絞れるだけ絞り尽くされて、館の栄養と成り果てるの。絶対に蔑ろにしてはダメ」
「わかってる、わかってるわよ。でも、こんな変な服じゃないとダメなの? もっとシックなデザインのものは?」
「シックとか、わかってない人の言い方はやめて。この隊員服はサーチャーとの組み合わせを完璧に考えてデザインされているのよ。教導団のお針子部隊なめてるの? 針供養にされるわよ」
針供養という言葉の意味がジェニーに伝わったかどうかは不明だが、ジェニーは何度もうなずいた。
部屋の中とはいえ、広い空間だ。僅かな風がジェニーの頬を撫でる。
「そしてこれ、ウォーキー・トーキー。見たことあるかしら、無いわよね。なくて当然、本邦初公開。今までこの世界には存在しませんでした。あら素敵、よく見て、こっちを耳に、こっちを口に当てて話す。すると……あっちの冷蔵庫に貴女の声が届くってわけ、冷蔵庫からも声を届けられるわ。残念ながら、フレッシュサラダは送れないけど……」
アリスから最初に説明を受けたときも感じたがひどく早口だ、加えて自分の発明を紹介するときは更に早口になるらしい。
ジェニーはややうんざりした顔でアリスを見ている。
「まあ、これらの装備は貴女を基本守ってくれる。そして、やることは、探検ごっこよ」
「ごっこ?」
「ごっこってのは失礼ね。貴女の見つけたリソースがこの教導団を生かす。明日、ダスクモーンから館がなくなり、太陽の下に戻れるかもしれない。明後日かも。でもそれまで生きていなければならない」
「そうだといいわね。それまで、私このへんてこりんな服で歩き回らないといけないわけ?」
「服のデザインは……そうね、でもこれでも未来のデザインなのよ」
ジェニーはいい加減、舌を出してうんざりした顔をした。
「とにかく装備のテストを兼ねて、コロニーから出てこの辺を歩いてみましょう」
ジェニーはアリスの手でアイテムを装備されていく。肩に下げられたウォーキー・トーキーがずしりと重く感じる。
「私は、この無線機の前にいるわ。いつでも話しかけてね」
「例えば?」
「そうね、怪物と出会ったとき、怪物と出会いそうなとき、怪物かもしれないものを見つけたとき」
「怪物ばっかりね」
「これが一番大事だった、食べ物を見つけたとき」
ジェニーは神妙に頷くと、コロニーの一番外れにあるドアへと向かって歩いた。
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「アー、アー、ハロー? 聞こえる?」
「ハロー、ジェニー。聞こえるわよ。何か見つけた?」
「いいえ、でも、本当に話せるのか試したかったの」
「分かってるわ。でも、ちゃんと話せてるでしょ。さあ、何が見える?」
ジェニーは、ドアを出た先を見回す、人間ふたりが横にかろうじて並んで歩けるくらいの廊下が左右に続いていた。
「廊下ね」
「オーケー、廊下は分かった。じゃあ、その廊下はどこから来て、どこへ続いている?」
「え」
廊下の始まりと終わりについて、今まで考えた人間がいただろうか。
しかし、目の前のものを説明すればいいのだ。もう一度、頭を左右に振って、廊下を詳細に見る。
「コロニーの出口から出て、左右に廊下は続いているわ。右には20フィート先に曲がり角があるのがわかる。左は10フィート先の右手にドア。更に20フィート先に曲がり角」
「オーケー、分かってきたじゃない。じゃあ、左のドアの前まで進んで」
おそるおそる、ジェニーは廊下を進む。手にはフリークス・リサーチャー。ポン、ポン、と小さな音を立てている。画面に怪物を示す表示はない。
「ジェニー、念の為だけど、うかつに壁に触ってはダメよ。”食われる”わよ」
「食われる? 何に?」
「館に」
すっと、恐怖が背中に忍び寄る、そんな感覚に襲われた。
「わかったわ」
余計な話をしている暇はなかった。ドアが逃げてしまわないうちに、ドアに辿り着かなくては。
ドアが逃げるとは?
しかし、その確信がジェニーにはあった。
ゆっくりとドアの前にたどり着くと、ドアノブに手をかけようとする。
ピーー!
ウォーキー・トーキーが呼び出し音をあげる。
「もしもし? こちらジェニー」
「ジェニー? こちら”麦畑”基地よ。ドアを開けるときは十分注意して。ドアが逃げないように、クサビを打ち込むの」
「クサビ?」
「右のポーチに入っている小型のクサビよ。これをドア枠に打って」
「オーケー。これね」
ポーチの中を見ると、金でできた、小さいクサビが入っていた。一つ取り出して、ドア枠に刺す。
「部屋に怪物がいないか、サーチャーで調べなさい」
サーチャーをドアに近づける。サーチャーは、ガサガサとノイズを出したが、小型のディスプレイに怪物の存在を示す表示は出なかった。
「いないようよ」
「注意して開けなさい。ドアの先は部屋であって、部屋ではない。別の宇宙だと思って」
できる限りの注意を払ってドアノブを回す。
ギイイ……。
蝶番の音。
「何も見えない……いえ、見えてきたわ。人形……? たくさんの人形がある部屋よ」
「おめでとう、ジェニー。貴女の見つけた第一号の部屋よ」
大机、そして壁に寄り添うように置かれた棚には、陶器でできた人形たちが所狭しと並べられていた。
白い肌はどこか骸骨めいていて、不気味さとそれでいて美しさをたたえている。
「食糧、その他、リソースになりそうなものは見当たらないわ」
「オーケー、ジェニー。じゃあ戻ってきなさい。今日はサーチャーとウォーキー・トーキーのテストが目的よ」
ドアをゆっくりと閉め、ジェニーは胸をなでおろした。
僅かな時間ではあったが、恐ろしい緊張をしていた。早くコロニーへ戻りたい。
コロニーへのドアへとジェニーは、慎重に戻っていった。
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コロニーの出口ドアの前に再び立っているジェニー。
運良く帰ってこられた。ほんの僅かな距離だとはいえ、館はジェニーの恐怖を吸い尽くして、搾り取ろうという悪意を持って見ているという意識が離れなかった。
「よく帰ってこられたわ、ジェニー」
アリスが声をかけながらこちらへ向かってくる。
「ええ、本当に。常に誰かに見られている気がしたわ。そして怪物の気配を常に感じて……」
「あの僅かな距離でも、あなたにとっては偉大な一歩よ」
アリスは大げさに安堵したように見える。
「ねえ、なんで私なの。私は特別じゃない。今までだって、コロニーの中で誰でもできるような仕事をして……」
「いいえ、貴女は特別よ。自信を持っていいわ」
ジェニーは戸惑った。アリスはジェニーの顔をまじまじと見ると更に続けた。
「特別な才能があるの」
「才能?」
「そう。才能。貴女だけの」
「それは何?」
「聞いちゃう? それ聞いちゃう?」
「アリス、あなたから言い出したんじゃないの」
「まあ、そうだけど」
「あれだけ思わせぶりなことを言っておいて、あとはダンマリってのはひどいんじゃない」
「じゃあ言うけど」
「うん」
「怪物を引き寄せる才能」
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「もう嫌だって言ったはずなんだけど……」
「貴女ねえ、このコロニーで生きていきたいなら教導団の命令は絶対だってことを知っておくべきよ」
うんざりした顔をしているジェニーに手早く装備をつけていくアリス。
「大体、前のテストなんてピクニックみたいなもんなのよ。ほんの20フィート歩いただけ。ドアを開けてこんにちは、それで帰ってきたんだから」
「それでいいって」
「だから今回からが本格的な探索なのよ。わかってないわね。ほら、サーチャーは動いてる?」
サーチャーを持ち上げて見る。画面にはこう表示されている『S』
「S」
「南(South)よ。貴女、学校は出た?」
「方位が表示されるって、前は言われてないけど?」
「今回追加になったの。DLCよ」
「DLC?」
「ごめん、この世界にはなかった。とにかく、方位を報告しながら歩いて。そうすれば救助も早くできる」
「そういうことね」
本当に方位に反応しているのか、頭を回してみる。文字の動きは確認できた。
サーチャーを腰に戻す。
「それじゃ、リサーチャーワン、検討を祈る」
「リサーチャーワン?」
「コールサインよ」
「コールサイン?」
「探検中は貴女はリサーチャーワンってことなの。じゃあ、頑張って」
アリスはグイグイとドアへ向かってジェニーを押してくる。
ドアの様子は昨日と変わらない。
だが、ドアの先の様子は違っていた。絨毯敷きだった廊下は芝生と下草、カンテラは飛び交うホタルと月明かり。
自然。人工物から一転、自然物が溢れている。なんだか、虫の鳴き声も聞こえてきそうだ。
「アロー、アロー。アリス! 廊下が変わってる!」
「こちら”麦畑”基地。リサーチャーワン、コールするときは最初に自分の名前を言うのよ」
「そんなこと、どうでもよくて!」
「廊下が変わってる? どういうふうに?」
「昨日は、絨毯と漆喰の廊下だった。今日は森の中みたいな……自然の世界」
「オーケー、リサーチャーワン。館はね、貴女を惑わせようとしてるの。昨日、ドアを見つけたのと同じ方を見て。ドアがまだある?」
視線を左に振って見る。森の中にぽつんとドアが、ドアだけが立っていた。
「あるわ、ドアだけ、森の中に」
「よかった。クサビの実験は成功ね。じゃあ、ドアに入らずに先に進んでみましょう。新しい部屋を探すのよ」
「わかったわ……」
「こういうときはね、ロジャー(了解)って言うのよ」
「ロジャー。”麦畑”」
「いいじゃない。さあ、進みましょう」
しばらくは、館が見せる風景に振り回される。自然の風景があったかと思えば、自然を引きちぎるようにして絨毯と漆喰の廊下が現れ、そして急に石畳と石壁の廊下に。
ドアはいくつかあったが、食糧らしきものは見つけられていなかった。
水を飲もうと、腰のポーチに手を入れてボトルを取り出す。
「アロー、こちら”麦畑”基地。調子はどう、リサーチャーワン」
「こちら、リサーチャーワン。今の所成果なし。経過時間は……2……2時間30分」
「オーケー、じゃあ、戻りましょうかリサーチャーワン。同じだけの時間が戻ってくるのにかかるのよ」
「りょうか……」
Beep!
Beep!
「ちょっと待って、サーチャーが……。計測値が異常だわ、なにか近くにいるみたい」
「リサーチャーワン、急いで戻って。サーチャーに注意を払うこと」
「ロジャー!」
ジェニーは急いで立ち上がり、元の道を戻る。急いで戻ろうとするほど、元の道がわからなくなる感覚に襲われる。
「アロー、”麦畑”。ねえ、私、どの道を来たんだっけ」
早足になりながら、ジェニーはあたりを見回す。見覚えのない風景。
「こちらから、逆順をナビするわ。サーチャーに注意してね」
サーチャーが音をがなり立てるたびに焦りが襲い来る。怪物がそこに。
「私を殺そうとしている」
「教えてあげる、館に出る怪物は全部が貴女を殺そうと待ち構えてるの。でも貴女だけじゃない。例外はないのよ」
恐怖がベッタリと思考に張り付き、注意力を奪っていくようだ。
Beep!
Beep! Beep!!
音が近づいてくる。音が? 音を立てているのはサーチャーだ。
「音が!」
「音の感覚が狭くなってきたら、怪物が近づいているってことなの。急いで。ドアを開けて入ってもいいわ」
ジェニーは走りながらあたりを見まわす。
ドアが!
しかし、あのドアは見つけたものだろうか?
Beep! Beep!! Beep!!!
後ろに。
ジェニーは走りながら、後ろを振り返る。
果たして、そこには。
黒く光るうろこ状の皮膚。恐ろしく長い爪、そして口から飛び出した牙、赤い目。
怪物が、ジェニーを狙っていた。
「やっぱり怪物いたああああああ!!!!」
ジェニーは走りだす。あのドアは!
怪物の爪は、ジェニーの10インチ後ろまで迫っている気がする。
ドアを開ける。
ガラガラと音を立てて中のものが溢れ出してきた。
整理されていない道具入れのような場所から、転がりだしてきたのはレンチだ。
もうこれでいい。レンチでいい。レンチが唯一、あの爪の長い、ぬらぬらの怪物と戦う手段だ。
ジェニーは決心した。
「私は戦士だ」
このレンチがあれば、どんな怪物とでも戦える。館の送り出してくる恐怖とも戦えるし、なんだったらトイレの排水パイプだって修理できる。
でも戦士に排水パイプを修理している暇はない。
だって、怪物に襲われているところだから!
レンチを振り、怪物の頭に当てる、怪物がよろめいた。
今だ!
レンチを投げ捨て、再び走り出す。もと来た道へ。
「あの懐かしの、懐かしくもない、クソくらえ、教導団!」
「むちゃくちゃ言ったわね!」
でも、安心できるあのコロニーへ!
「”麦畑”!! ナビして!」
「怪物は? どうなった?」
「レンチをぶちかましてやったわ。でも死んでない」
「ジェニー、貴女、なかなかどうしてやるじゃない」
「いいから!! ナビ!!」
廊下の絨毯に足を取られそうになる。館の悪意だ。もう排水パイプを修理などしてやるものか。
「ドア!!」
「開けなさい!! リサーチャーワン!」
転びそうになりながら、ドアに取り付く。
もどかしさで手がどうにかなりそうな感覚と戦いながらドアノブをひねる。
薄暗い部屋だ。
いや、それどころじゃない、この部屋で使えそうなものは……。
絵画や、彫刻の他に、宝石も展示してある。
美術室、あるいは収集品室なのか。
「Grr……。」
怪物の息が聞こえてくる。
とにかく部屋に転がりこむ、ドアには、もう戻れない。
展示台の影に隠れる。
カチャ……カチャ……。
怪物の足爪がリノリウムの床を叩く音が聞こえる。近づいてくる。
館は、見ている。
私を……。
ダメだ、戦わなくては。
戦士だろ!
立ち上がる。怪物と目があった。
展示台に置かれていたものを、怪物へ放り投げる。投擲スキル。
そんなものがあれば。
ちゃんと練習しておいたのに。
放物線を描いて、怪物の頭へ宝石が飛んでいく。宝石だったのか。
ジェニーは少しの後悔を抱く。
しかし、怪物は煙のように、宝石の中へ吸い込まれてしまった。
ーー。
宝石の落ちる音が大きく響いて、その後に静寂とジェニーの後悔だけが残されていた。
この後悔は捨てていこう。
怪物のいたあたりを見に行くと、薄い青の宝石が落ちている。
中には、あの怪物が。
《宝物》ね。
後悔は、生き残った安堵が押し流してくれた。生き残れた。その喜びだけで、十分だった。
「リサーチャーワン、生きてる?」
「ええ。
でも、生きた心地はしなかったわ」
「ダスクモーン:戦慄の館」へようこそ!
こんにちは!
『ダスクモーン:戦慄の館』プレビューへようこそ!!
ホラー大好きな皆さん待望の、モダンホラーをテーマにしたエキスパンションがついにお目見えです。
『イニストラード』や『イニストラード:真夜中の狩り』、『イニストラード:真紅の契り』で描かれてきたホラーはゴシックホラー。
所謂、電気、電化製品が一般的となる現代社会となる前の時代を舞台に描かれたホラーのテイストを持った世界でした。
時代的には、ビクトリア朝イギリスくらいを想定してください。
ドラキュラ伯爵、オオカミ男、フランケンシュタインの怪物、誰もが一度は名前を聞いたことのある怪物たちが中心のホラーです。
一転して、『ダスクモーン:戦慄の館』がテーマとしているモダンホラーとは、現代社会のホラー。
しかし、ホラー作品として隆盛したのは、70年代80年代の映画文化が中心なのではないでしょうか。
「13日の金曜日」、「悪魔のいけにえ」、「シャイニング」、「チャイルドプレイ」
こういった映画作品や小説、コミックがモダンホラーというジャンルを盛り上げました。
そんな一大ジャンルであるモダンホラーの世界にプレインズウォーカーや元・プレインズウォーカーたちが挑む!!
これが面白くないわけがない!! 期待大のエキスパンションですね。
さて、今回ご紹介するカードは《精体の追跡者》!
なんか、めちゃくちゃレトロフューチャーな機械をぶら下げたお姉さんがイラストに出てくる素敵カードです!!
その能力は、「あなたがコントロールしているエンチャント1つが戦場に出るたび、および、あなたが部屋1つを完全に開放するたび、カードを1枚引く」とあります。
部屋……部屋1つを完全に開放ってなんやねんという方もいらっしゃるはず。
わかります、わかりますよ!
しかし、そう、ホラーはホラーでも館ものをフィーチャーしたダスクモーン。
部屋のギミックもちゃんとあります!
もう、公開されたものをご覧になった方もいらっしゃるのでは?
「エンチャントー部屋」という新しいデザインのカードを!
ここでもう一度《人形作家の店》/《陶磁器ギャラリー》をお見せしましょう。
《精体の追跡者》は、エンチャントをテーマとしたデッキのドローエンジンとなるだけではなく
「エンチャントー部屋」を利用したデッキとも相性が抜群にいいカードになりそうですね!
『ブルームバロウ』では、「エンチャントークラス」系のカードが収録され、デッキの中核となっていますし
あるいはモダンやレガシーにおいても、青を絡めたエンチャントレス系のデッキという新しい選択肢も出てきたのではないでしょうか。
今回もカードアートを利用したお楽しみ要素もあります!
「通常版アート」の他にも、「隠れ潜む邪悪版アート」
「隠れ潜む邪悪版アート」
「超常フレーム版アート」
「超常フレーム版」のデザインは、昔のブラウン管テレビ風というか、レトロコンピュータ風ですね。
ブラウン管テレビが一般的だった時代、やはりモダンホラーは人気でしたから、ピッタリのデザインです。
個人的には、「隠れ潜む邪悪版アート」が好きで、「通常版」と一緒に並べて使いたいですね!!
楽しみになってきた、『ダスクモーン:戦慄の館』!
プレビューをみて、発売を楽しみにしましょう!