空からのおくりもの
その日は、快晴でコッツウォルズからも星がよく見えた。
何人かの大人たちが小高い丘に登り、レジャーシートを広げると山ほどサンドイッチが詰められたバスケットをシートの端に置いた。
レジャーシートの中心に置かれたのは、赤子の腕ほどはあろうかという太さの黒いカーボンでできた三脚、そしてその上に載っているのは、これまた大きなレンズが取り付けられた望遠鏡だ。
彼らは、アマチュア天文家だった。
だが、自分のことをアマチュアだなんて思っている人はひとりだっていやしなかった。
とんでもない発見をして、いつか名を知らしめてやろうという野心を抱いた、それでいて、どうしても宇宙という深遠なる世界への憧憬を隠すこともできない子供のようなロマンチストたちだ。
ロンドンからほどよく離れたコッツウォルズは、天体観測には最適な場所と言えた。
田舎だなんてことは、まあ問題はあるとしても、やはりこの宇宙に一番近い場所に天体望遠鏡を置いて、夜中までじっくりと星を眺めることができる価値はなにものにも代えがたいと思っていた。
初夏とは言え、夜の闇はやはり身を冷やす。
温かい紅茶でも飲もうとマグカップを探していたその時、あっという声がどこからともなく上がった。
「星だ!」
星なぞ、いくらでもある。
両手いっぱい売ったって、まだ余るほどの星が。
いや、しかしそうではなかった。
「星が、空へ上がっていく!」
そんな話があるか。
この地球から宇宙へ上がっていくとしたら、それはロケットくらいしかありえない。(アメリカのNASAが開発したスペースシャトルは運用を終了して久しい)
しかし、本能がパッと天体望遠鏡へと身体を飛び上がらせた。
宇宙へ上がっていく星を探す。「260°だ!」誰かの声がする。
赤道儀を声のいう角度へ合わせ、ファインダーレンズを覗いた。
「あっ!」
薄く、青い光が幽霊のように揺らめいて、スルスルと空へと上っていく。
宇宙という真っ黒なすすだらけの窯の底へ地上から墜ちていくようにも見えた。
電話しなくては。
だが、誰に?
ポケットから出した携帯電話の液晶画面をじっと見つめて、手が動かなくなってしまった。
R.R.R.R.R.R......
「どうも、イギリス国立宇宙センターです。貴方も宇宙に上っていく星の話?」
もう見えなくなってしまった暗い空を見上げて、天文家たちは立ち尽くすしかなかった。
「ミッション・レポート、完了」
「地球は今日も平穏、こともなし、か」
「そんなことは無いのよ。この惑星のどこかでは、今日も飢えに苦しむ人も、寝る場所もない人もいるのだから」
「はいはい、いつものやつね。じゃあ、お疲れ様」
壁から突き出した“引き出し”の上に置いてあるラップトップコンピュータの電源を落とし、引き出しをそのまま壁面へ収納した。
身体を固定していた“袋”のジッパーを引いて、袋から抜け出し、下半身を自由にする。
ふわふわと身体は中空へと浮遊し始めた。
壁を蹴らないと、今夜の食事にはありつけない。
急いで壁を蹴ると”ダイニング”の方へと泳ぎだした。
「グッド・イブニング、ミスタ・ウィリアム。もう、ISSには慣れた?」
「やあ。そうだね。この分だと地球には戻りたくなくなってしまうな」
「3週間もいたら、早いところ硬い地面が恋しくなるかもしれないですよ」
「ハハ、そうかもしれないな」
私は”ダイニング”のオートクッカーから夕食を取り出した。
クッカーと言っても、この宇宙ステーション内で利用されるお湯を利用して温めただけ、レトルト食品だ。
『ローストビーフ』と書かれたその中身をほじくり出しながら、窓の外を眺めていると、他のクルーが話しかけてきた。
「そういや、地球では、いやどこだっけ、イギリスのどこだったかで、地上から空に上がる星が見えたってよ」
「空に上がる星? ロケットじゃなくて?」
「夜中にロケットを打ち上げるバカはいないだろうな。なんでも、細くて、ゆらゆら揺れている光がスーッと空に上がっていったんだってよ」
「なんだ? 幽霊の話なら、トワイライト・ゾーンが専門じゃないか」
「もうそんな古い雑誌残ってないよ」
アストロノーツにとって、夕食時のバカ話がこの閉鎖空間の数少ない楽しみのひとつだ。
あとは、食べること。
ミッションはエキサイティングだが、息抜きはやはり必要だし、雑談をしていると思い浮かぶこともある。(と言っても、試料は限られていて、せいぜい地球に帰ってから次のミッションプランとして提出するくらいだが)
食後はゆっくりと寝ていたい気持ちもあったが、トレーニングの時間だと腕時計が告げてくる。
このアラームが10も登録できるデジタル・ウォッチは、昼も夜もない宇宙ステーションで唯一、彼を時間に縛り付ける道具だった。
壁のベルトを掴んで身体を方向転換させ、腕の力で壁を押す。1分も経たずに到着したのがトレーニング・ルームだ。
簡素なルームランナーと、腕のトレーニング用のバー、これはぶら下がり健康器みたいなものかもしれない。
しかし、無重力(厳密には低重力下)で、ぶら下がるのにはなんの意味もない。
バーは、ぶら下がらずに掴まって、腕のスクワット、バーベル上げのような運動を行うことができる。
持ち上がるのは自分の身体だが、考えようによっては、この国際宇宙ステーションを持ち上げているのだ、とすることだってできる。気の持ちようだ。
ルームランナーのスピードをセットし、腰にベルトをつける。そして、ゆっくりと歩き始め……走る速度へ。
楽しい時間ではないが、運動しながら、小さい窓の外を眺める。今日も宇宙は晴れ上がっている。
漆黒の闇に浮かぶ光の点、その星々が自身を構成する燃料、つまり躰を燃やして輝いている。
人間だって、いや生物も同じだ、身体に蓄えられたエネルギーを燃やして生きている。生物の身体はそっくりそのまま小さな宇宙なのだと、宇宙に出て初めて思い知らされる。
突然、アラームが艦内に鳴り響いた。
「キャプテン」
誰だと思ったが、自分のことだったと思い至る。
「どうした」
「ISSに急速に接近してくる物体があります。それも、非常に大きい質量のものが」
「隕石か? 距離と時間は?」
「距離は約300キロメートル。時間は、30分もないかと」
「質量が大きくてなぜ気が付かなかったんだ? いや、それよりも、ISSに衝突する場合どうなる?」
「質量差が大きすぎます。ISSの接続部が耐えられません。バラバラになるかと」
「ISSが避けることは可能なのか?」
「ISSは静止軌道上にあります。これを離れれば、ISSは宇宙の迷子か、もしくは……」
「地球とキッスすることになる、か。……できることを考えよう」
食事をしていたクルーも、休息していたクルーも全員が出てきて、中央モジュールへと集まる。
「ISSに衝突すると限らないのでは?」
「現在のコースのまま接近すれば、70%の確率で接触します」
「ISSは自力で動くには質量が大きすぎる。そもそも、ISSは”建物”であって、”乗り物”ではないんだ」
「隕石との衝突は想定されていたが、それこそ天文学的確率であるという想定だったんだ」
「何も用意してないってことか?」
「そうとは言わないが……」
各国の頭脳とも言える優秀な者たちが額を突き合わせてもこの有様だ。宇宙というところはなんと恐ろしい面も持ち合わせているんだ。
「シミュレーションでは……中央モジュールへの衝突可能性は低い。中央モジュールに全員避難し、隔壁を閉鎖しよう。衝突によって問題が起きたブロックは即時破棄し、ISSを静止軌道上へ戻すミッションを実施する」
全員が頷いた。
「司令、イギリス国立宇宙センターから、衛星軌道上から地球に対して侵入してくる飛翔体ありと報告がありました」
「隕石じゃないのか」
「隕石ではないそうです。ISSとニアミスし、そのまま熱圏から成層圏へ突入していったと。……その、UFOだそうで」
「ラジオの話か」
「いえ、未確認の飛行物体だそうで、ISSクルー全員が目視しています」
「仮に飛行物体だとして、我が国への影響はどうなんだ?」
「コースシミュレーションでは、その……」
「はっきり言いたまえ」
「落下地点はロンドンであると」
「……わかった。緊急警報(エマージェンシー・アラート)、首都防空体制をとれ」
「アイ、サー。エマージェンシー・アラート、首都防空に入ります」
暗い部屋が騒然としだす。
監視用のモニターに新たな光点がマーク。
地球全体を映し出された大型モニターに軌道が描き出されていく。
「落下速度から、落着は1時間後の予測」
「1時間……早すぎる。クイーンは避難されたのか」
「ロイヤル・ファミリーは既に退避済みです。首相ら閣僚は、防衛体制のため、官邸で」
「とにかく被害が出ないようにすることが先決だ。迎撃用のミサイルと、監視用の偵察機だ」
「偵察機 ウィングアイは既にタキシング。ロイヤル・エアー・フォースから上がります」
「すぐに上げろ」
「了解」
モニターの光点は、既に地球を半周している。
高度はシミュレーション通りの減少率。
「ウィングアイが目標にコンタクト」
「ウィングアイ、どんな様子だ」
「……ガガ、既存の機体で一致するものはなし。尾翼側に発煙を確認」
「やはり、墜落なのか。生存者等は確認できるか?」
「……ガガ、外からの目視では搭乗者等確認できません。アッ」
「ウィングアイ、どうした」
「急に、目視できなく……」
「ウィングアイ、はっきりしろ」
「未確認飛行物体が目視で確認できなく……消えました」
「そんなことがあるか!」
「……ガガ、いえ、消えました。見えません」
「司令、ウィングアイが接触し、墜落する恐れがあります」
「ウィングアイ、帰投しろ」
「……ガガ、コピー」
監視モニターから、光点がかき消える。
「……見えなくなっても、予定通りだとしたら、落着時刻は変わらないか?」
「おそらくは」
「迎撃ミサイルの準備は」
「できていますが、ターゲットできないと発射できません。レーダーで捕捉できないのです」
「電波以外はどうだ」
「音波による索敵は、至近距離でなければ有効ではありません」
「その場合、ロンドン上空でミサイルを炸裂させることになる、か」
「それに、予定時刻通りの落着とは限りません。目視できない以上、どの位置にいるのか、確定できないのです」
苦々しい顔をした司令が、大型モニターを睨む。
その刹那、モニターに大きくノイズが入った。
「……。はい、はい。司令! 未確認飛行物体が、テムズ川に落着したそうです」
*************
「……ザザ、UFOが首都に飛来し、ビッグベンに衝突。治安部隊が総動員され、事態収拾に当たっています。……」
パラドックスの力
デッキリスト
パラドックスの力のキーカードたち
さて、今回はドクター・フーの構築済みデッキをベースに”ちょい足し”で改造した簡単構築です。
そもそも、ドクター・フーとはなんぞや? という方が大多数なのではないでしょうか?
ドクター・フーは、イギリスのテレビ会社BBCが1963年から放映開始したSFテレビドラマです。
BBCというのはイギリスの公共放送でして、日本で言うところのNHKのような立ち位置のテレビ会社です。
惑星ギャリフレイに住む「タイムロード」という種族であるドクター(ちなみにドクターの後にも正式な名前があるのですが、人間には認識不能である言語のため、who”誰という意味'となっているのです)が、宇宙時間航行船「ターディス」に乗り、様々な時代、惑星に行って冒険を繰り広げるストーリーとなっています。
様々な場所が舞台となっているため、大体1話完結となっており、非常に見やすいドラマになっております。
今回の記事を書くにあたって、ネット配信サービスを利用してドラマを見たのですが、そりゃあまあずっぽしハマってしまいました。
めちゃくちゃオススメです。
どの回も脚本が秀逸で、序盤に出てきたちょっとした話がストーリー全体を貫く伏線となっていたり、ドクターとコンパニオンの活躍が格好良かったりと本当にすごい! 見て!
デッキ・コンセプトは、タイトル(と構築済みデッキの名称)通り、パラドックスを最大限活かすことを目的にちょい足ししてあります。
コンパニオンとして指定した《ヤズミン・カーン》はその能力でデッキトップから追放したカードをプレイできますから、《13代目ドクター》やデッキに入っているクリーチャーたちのパラドックスを誘発できます。
この方向性を推し進めて、デッキトップから呪文を唱えることができるカードを追加してどんどんパラドックスしていきます。
《インガとエシカ》(ちなみにプレビューしたカードなので思い入れも非常にありますし、能力も大好きです)、《エルフの合唱》で、デッキトップのクリーチャーを唱えるとパラドックスできますし、《Into the Time Vortex》で続唱してもパラドックスできます。
そして、何より愛しているのが《ターディス》で攻撃をした後の次の呪文が続唱できる! これでパラドックス!!
《鉄面提督のトンネル掘削機》も上手に裏返すことができれば、発見を誘発させられて、これもパラドックス!! やったね!!
あとは、マナ・ベースを安定させるために《ウルザの物語》や、全体除去として《冒涜の行動》、《サイクロンの裂け目》を追加してあります。
ちょい足しというには少し高価なカードチョイスなのでもっと手軽なカードにしても良いかなと思います。《月銀の鍵》なんかもオススメです。
終わりに
今回は「ユニバース・ビヨンド ドクター・フー」のカードを使用したデッキを紹介しました。
統率者を決めて、それに沿った形でデッキを組むのも悪くないと思ったのですが
ドクター・フーが面白すぎて、ドクター・フーがいっぱい入ったデッキを組みたい! と思ったんですよね。
それで構築済み統率者デッキを選んだのですが、そこに足すカードもドクター・フーのイラストがあるものを中心に選んでみました。
キーカードの中にはどうしても世界観の違うイラストが混ざってきてしまうので、そこをどう考えて折り合いをつけていくか、これも統率者戦の醍醐味かなと思いました。
ドクター・フーの構築済み統率者デッキはいろいろな効果がある新規カードも多く、非常に魅力的なデッキとなっているので、ぜひ手にとって見てください。
それではまた、「統率者をめぐる冒険」でお会いいたしましょう。