人のカードが使えたら
他のカードゲームにあって、デュエル・マスターズに無いものがある。
それは相手のカードを奪うカードだ。
俗に言う、コントロール奪取系のカードである。
デュエル・マスターズは、相手のカードを自分側に置く、あるいは自分のカードを相手側に置くというデザインを避ける傾向にある。
ルール上でも問題が発生しやすいという点もあるが、何よりライフ管理・カウンター管理といったある種のややこしさを取り払ったデュエル・マスターズにおいて、他のプレイヤーにカードが移るという物理的な点が障壁になっていると思われる。
だが、誰だって思う事はあるだろう。
相手のカードを使いたい。
もし相手のカードが使えたら、デッキは80枚あるも同然だ。
それに相手がより強いカードを使えば使うほど、自分も強くなるという事が起こる。
相手の強力なカードを奪い取って使えるというのは、夢のような事なのだ。
確かにデュエル・マスターズには、相手のカードを奪えるようなカードは存在しない。
しかし、相手の能力を奪えるカードなら存在している。
その元祖とも言えるのが、《聖騎士サーベルフィーリ》だろう。
攻撃の代わりにタップする事で使う事が出来るタップトリガー能力を持っているが、このクリーチャー自身は何の能力も持っていない。
このカードが使えるのは、バトルゾーンにあるクリーチャーの持つタップトリガー能力なのだ。
自分のクリーチャーはもちろん、相手のクリーチャーが持つタップトリガー能力を使う事も出来るのである。
さて、《サーベルフィーリ》が奪うのはクリーチャーの能力だ。では、呪文を奪うカードの元祖は何だろうか?
それは《陽炎の守護者ブルー・メルキス》だ。
このクリーチャーが相手のシールドをブレイクする際、その中にあるシールド・トリガーを持つ呪文を自分が唱えるという、かなり異質な能力を持つクリーチャーである。
仮に《デーモン・ハンド》や《ホーリー・スパーク》なんかを奪ってしまうと、相手の逆転の目が一気に追い打ちをかけるカードへと変貌してしまうのだ。
このように、相手のカードを奪う事はできないものの、相手のカードが持つ能力・効果を奪い取るカードは過去から存在している。
そして、このデザインは今なお継がれており、その最新版とも言えるカードがこの2種類だ。
いきなりデッキリスト
最初に作った構築が、このようなリストであった。
やる事は簡単で、裏向きのマナを増やし、まずは《「呪怨」の頂天 サスペンス》を出して相手の選択肢を奪い取り、ゲームを終わらせる事である。
相手がクリーチャー主体の場合、その後に《クリス=タブラ=ラーサ》を出して相手クリーチャーの能力を奪い取り、そのままゲームを終わらせよう。
このデッキの動き自体は悪くはない。
2ターン目に裏向きマナを1枚確保し、3ターン目に《シャングリラ・クリスタル》を唱えると、4ターン目に《「呪怨」の頂天 サスペンス》を出す事ができる。
ほとんどの相手は、4ターン目に手札を奪われてしまったら、何も出来なくなるだろう。
とはいえ、それは3ターン目までに《シャングリラ・クリスタル》を引けた場合の話だ。
引けなかった場合は、愚直に裏向きマナを増やしつつマナチャージをすることになるので、マナの伸びはあまり良くない。
かなり頑張れば4ターン目に《「呪怨」の頂天 サスペンス》を出す事は可能だが、手札を大量に消耗するうえ、クリーチャー主軸の対面に対しては、自分のリソースを削って相手のリソースを削るだけ、という結果になってしまう。
そのため、シールド・トリガーを手厚くとっている。
一見すると理にかなった構築に見えるかもしれないが、このデッキでは、盤面への干渉が非常に穏やかだ。
確かにクリーチャーを対処するカードは多いが、いずれも自身のリソースを削っていくため、結果的にジリ貧に陥ってしまう。
結果、マナは揃ったが手札が乏しく、《「呪怨」の頂天 サスペンス》を出す事ができても、相手のクリーチャーを処理できずに負けてしまう、という事が起こるのだ。
よって、この段階での問題は
・相手クリーチャーへの対処
・リソースの確保
という点が挙げられる。
この点を考慮したうえで、構築を変えた結果がこちらだ。
問題点に対処したリスト
《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》だが、こちらは相手クリーチャー3体を対処しつつ、相手のクリーチャー展開に対してリソースを確保する事が出来るという、このデッキに完璧な相性を持つカードだ。
当然、裏向きマナを増やす事で早期召喚が可能で、仮に《シャングリラ・クリスタル》を唱える事が出来なくても、それなりのリソース消費で出す事ができる。
苦手としていたクリーチャー展開に対しての回答となったが、この構築でも、まだ問題があった。
それが、防御力の低さだ。
確かにシールド・トリガーも申し分なく入っており、クリーチャー除去もブロッカーも入っているが、相性を意識した結果、ブロッカーの質がどうしても追いつかなかったのだ。
そのため、高いパワーでごり押しされれば、いともたやすく押し切られてしまうのである。
それにいくら手札を奪い取ったとしても、最終的には相手のシールドをブレイクしていく必要がある。
当然だが、シールド・トリガーを封じる事も出来ないので、そのシールドから逆転のカードを与えてしまい、一気に盤面の展開・逆転負けという事も起こり得る。
ここまで回してくると、このデッキで解決すべき点がより鮮明に見えてくるものだ。
次は、このデッキの抱える問題と、それを解決するためのプロセスを紹介していく。
弱点を克服するために
このデッキが抱える問題として防御面が挙げられたが、これを解決する前に、このデッキで気を付けるべき問題を挙げておこう。
ここ直近の記事は全て新型ゼニスに関するものであったが、そのすべてに共通する事として、裏向きのマナを扱う事がある。
この裏向きのマナを増やすという行為は、今までのデュエル・マスターズには無かった動きだ。
何せ、普通にマナを増やすだけでは増えず、専用のサポートを使わなければならない。
それに大半は既にマナゾーンにある有色のカードを裏向き、つまり無色のカードに変えてしまうため、マナの管理が今まで以上にシビアとなるのだ。
例えば、《「いいダシがとれそうだ」》を2ターン目に使った場合、マナのどちらかを無色に変えなければならない。
そうすると2マナの内片方が無色になってしまうため、1ターン目に置いたカードが単色の場合、使えるマナの色が1つに制限されてしまうのだ。
3ターン目に再びマナの色を整えたとしても、そのターンに再びマナのカードを裏向きにするのであれば、再びマナが制限されてしまう。
つまり、1ターン目に多色を置く事が出来るかどうかで、その後の展開が大きく変わってくるのだ。
が、困った事に後半に多色を引いてしまうと使えるマナの数が増やせなくなり、テンポが大きく削がれる事にもなってしまう。
よって、多色は無いと困るが、多すぎても困るのである。
枚数としては、8枚はギリギリ許容、4枚以上は欲しい、といった感じだ。
なぜこの問題を改めて意識するかというと、ブロッカーを採用するより、デッキの根幹を改築するというアプローチで解決できないか? と考えたからである。
そもそもブロッカーが必要のない構築になれば、ブロッカーを採用する必要も無い。
そういった構築ができないか? と違う方向から考えてみることも、デッキ構築のうえでは必要な事だ。
もっとも、全く無理な話であった。
しかし、マナ基盤を再考すべきという問題点は見つかった。
既存の構築では、既存のマナの色を染めていく方法のみを採用していた。
その点を、あるカードを使う事により、別の方法で裏向きマナを増やしていく事が出来るのである。
《Dの寺院 タブラサ・チャンタラム》である。
このカードも2マナで使える裏向きマナの供給源であるが、既に採用している呪文とは違い、即座に裏向きマナを供給できる訳では無い。
このカードを置いた次のターン以降、マナゾーンに置くカードを裏向きにすることが出来るのである。
つまり、既存の戦略では後からマナの色を増やす必要があったが、このカードを使えば、最初にマナの色を揃えておけば、勝手に裏向きマナを増やす事が出来るという事である。
これなら、2ターン目までに水・闇の2色をそろえて《Dの寺院 タブラサ・チャンタラム》を立てれば、その後はマナの色の心配をあまりする事無く、裏向きマナを増やす事が可能だ。
そうでなくとも、このカード1枚で裏向きマナを2枚以上作る事が出来るという点でも、使いきりの呪文とは大きな差なのである。
このカードの弱く見える点として、後半に引いた時に時すでに遅し、という風に見える点がある。
しかし、D・スイッチの能力により、大型ゼニスを2連続で送り込むという使い方が出来るため、実は後半で出しても、大きく足を引っ張るという訳では無いのだ。
このカードを採用するにあたり、多色カードを1ターン目に置く必要性が下がったため、多色カードの枚数を減らす事が出来る。
各文明の枚数が15枚を上回れば安定したマナバランスとなる事が考えられるので、その点にだけ注意しながら、カードを採用していくだけだ。
既存のマナ基盤を更に発展させる方法は、また別にもある。
それは水晶チャージャーだ。
ツインパクトでありチャージャー呪文である新たなサイクルは、クリーチャー面が優秀なメタクリーチャーであり、呪文面は裏側でマナに置かれるチャージャーという、かなり特異な性能をしている。
この呪文を採用すると、3ターン目まで有色マナを確保したまま、マナを伸ばしつつ裏向きマナを補給する事が出来るようになる。
3→5へのジャンプが出来るようになるうえ、いざという時はメタクリーチャーとして運用が可能と、このデッキには完璧な相性なのである。
これらのカードを採用によって見えてきたのは、コスト5~6程度のブロッカーを採用しても問題ない、という事だ。
3コストのマナ加速が《シャングリラ・クリスタル》と合わせて8枚以上搭載が可能になったので、ブロッカーの候補は大きく増えたと言えるだろう。
さて、マナという重要な点を解決したところで、再び採用するブロッカーへと話を戻そう。
今のマナ基盤を採用すると、先ほどの構築は、このようになる。
問題点とマナ基盤に対処したリスト
この構築からブロッカーの枠を割く場合、最も活躍の機会が薄いカードを差し替える方向になる。
その候補となったカードは《血塗りのシダン チリ》であった。
確かに《奇天烈シャッフ》すら除去可能なクリーチャーではあるのだが、どうしても《終斗なる牙 パラノーマル》と比べると活躍できる場面が少なくなってしまう。
ということは、採用すべきブロッカーは闇文明にすべきだろう。
闇文明で、コストが5~6で、それなりのサイズを持つブロッカーだ。
ここまで色々な思考を経て辿り着いたこの要素を満たすクリーチャーが、待ってましたと言わんばかりに、新弾に収録されていた。
それが《偽りの名 スコーピオ》だ。
なんと裏向きマナを供給しつつ、墓地から何度でも蘇り、それなりのサイズを持つブロッカーであり、水晶武装を達成すれば相手の動きを大きく削ぐ事が出来るのだ。
ひとたび水晶武装を達成してしまうと、相手の一気に展開・攻撃と言った動きを牽制できるうえ、墓地から召喚可能という点で実質的な除去耐性まで持っている。
このデッキが抱えていた問題をことごとく解決してくれるカードでありながら、そのコストは6と、このデッキの動きと非常に噛み合うコストだ。
先ほどのリストにこの1枚を加えれば、デッキとして新たな完成形になるはずだ。
最終的なリスト
終わりに
今回のデッキは、実に3週間かけてじっくり調整したデッキだ。
このデッキを作り上げる過程で、裏向きマナの扱い、《Dの寺院 タブラサ・チャンタラム》の扱い方、大型ゼニスへのアクセス手段、新規アンノウンたちの強みなど、様々な知見を得る事が出来た。
環境のデッキに太刀打ちできるかというと、実際のところ良い勝負は出来るレベルにはなっているので、この先の調整次第では、十分に活躍は見込めるはずだ。
今回はこのあたりで限界が見えたので、こうやって記事にして紹介する事にした。
とはいえ、新規のゼニス達は、まだまだ研究が進んでいないのが現状だ。
《「戦鬼」の頂天 ベートーベン》がサイクルの中では最も評価されているが、各ゼニス達を使った身としては、《「呪怨」の頂天 サスペンス》の評価の方が高い。
また、評価があまりされていない印象の《「狡智」の頂天 レディオ・ローゼス》も、使ってみれば結構強力であることが分かるだろう。
このように、新規のゼニスには、まだまだ見えない可能性が大量に秘められている。
ゼニスだけでなく、裏向きのマナや新規のアンノウン、果てはオラクル・セレス達にも、まだまだ秘めたる可能性があるはずだ。
自分一人では全てを解明するのは難しい。
しかし、ここ最近の私の記事を見て、少しでも新規のゼニス達の研究を進める者が現れたら、少しでもその助けになれば幸いである。