”おのれ”を知れ
人は誰しも、”何者か”になりたいと思うものだ。
自分が誇れるアイデンティティや称号を欲し、何とかしてそれを手に入れようと努力を積み重ねる。
そして手にしたアイデンティティや称号は、自分を形作るものとなるだろう。
しかし、それらを手に入れるためには、少なからず、”おのれ”を知る必要がある。
そのアイデンティティや称号が、果たして自分に相応しいものかどうか、自分の身の丈に合ったものかどうか、冷静に判断しなければならない。
身の丈に合わないものではいずれ自分の身を滅ぼしてしまうかもしれない。
そうやって道を誤ってしまった人を、何人も見てきている。
何者かでありたいのであれば、まずは”おのれ”を知ることだ。
さて、最新弾「邪神と水晶の華」に新たに登場したゼニスにも、”おのれ”を冠するゼニスが居る。
それが《「俺獅」の頂天 ライオネル》だ。
元となった《「俺」の頂 ライオネル》より更にコストが上がっているが、除去耐性を持っていたり、特殊な方法でのコスト軽減を持っていたりと、そのスペックは向上している部分も多い。
自分のシールドゾーンにシールド・トリガーを与える能力も、オラクル、アンノウン、ゼニスに限定されているものの健在だ。
なお、今回のゼニス達は金トレジャーでアイドル化とのことで
このライオネルも漏れなく、アイドル化している。
元が”獅子”をモチーフにしたゼニスという事もあり、かわいい中にも、どこか力強い印象を感じるイラストだ。
”獅子”モチーフなだけに、その顎の力で、とんでもなく硬い《龍装艦チェンジザ》の活け造りも難なく食べてくれる事だろう。
実際、パワーもライオネルの方が高いので、本当に食べてしまうかもしれない。
というか、このパワーを上回れるクリーチャーも、かなり数は絞られてくるはずだ。
即ち、ほとんどのクリーチャーは餌になってしまうのでは・・・?
急に恐くなってきた。
もしかしたら自分まで食われてしまうかもしれないので、今回は食われないためにもこのカードを使ってデッキを考えてみよう。
”俺獅(おのれ)”を知る
まずは、《「俺獅」の頂天 ライオネル》のスペックを確認しておこう。
今回のゼニスは専用構築でこそ光るスペックを持っているため、その能力を把握しておく事は重要になる。
専用構築でこそ光る、という事は、下手にオリジナリティを出し過ぎると破綻してしまう可能性が高いのだ。
コストは12、パワーは13500と高め。
水晶ソウル3を持つため、裏向きのマナの数だけ大幅にコストを軽減する事が出来る。使う際はこの能力を最大限使って出す事になるだろう。
召喚した時の能力は、シールド回復とエレメント1つのシールド化。自分のエレメントもシールド化できるので、覚えておこう。
自身のシールドゾーンにあるオラクル、アンノウン、ゼニスにシールド・トリガーを与える事が可能。
よって、2枚目以降の《「俺獅」の頂天 ライオネル》もシールド・トリガーとなるため、1枚でもバトルゾーンに出ると、かなり強固な守りとなる。
そのうえ、エターナル・Kという除去耐性まで持っている。
ざっと、こんな感じだ。
大型ゼニスの例に漏れず、召喚した時の能力を持ち、元の《「俺」の頂 ライオネル》同様、自分のシールドゾーンにある特定種族にシールド・トリガーを与える能力を持つ。
また、光のブロッカーであるため、《ヘブンズ・ゲート》での踏み倒しも可能だ。
この場合、召喚した時の能力こそ使えないもののシールド・トリガーを与える能力は有効なので、このアプローチでデッキを組む方法もある。
だが、やはり今回の目玉、水晶ソウルを使って出したいところだ。
これを活かせば、たった5枚のマナがあれば、このクリーチャーを召喚する事が可能になる。
裏向きのマナを4枚用意する必要はあるが、これだけ低コストで出せるというのは、やはり魅力的だ。
しかし、それだけだ。
確かに強力ではあるが、その能力は非常に受動的な部分が多い。
相手が攻め込んでこなければ、除去耐性のある大型ブロッカー、というだけにとどまってしまうのだ。
この手の受動的な能力を持つカードを使う場合、どうやってゲームに勝つか、を考える必要がある。
次はこのカードを使って、攻め込む手段を考えていこう。
”俺獅(おのれ)”の長所を知る
このカードの特筆すべきところは、自身のシールドゾーンにあるオラクル、アンノウン、ゼニスをシールド・トリガー化させるという点だ。
この能力は防御面で発揮される能力であるが、時に攻撃的に使う事も可能な能力なのだ。
元となっている《「俺」の頂 ライオネル》は、《天運ゼニスクラッチ》で踏み倒すようなデッキの場合、シールドから更なる大型ゼニスを召喚するという方法でも使われていた。
同じようなことが、この《「俺獅」の頂天 ライオネル》でも出来ないだろうか。
もし出来るのであれば、除去耐性も相まって、かなり強力なコンボになるかもしれない。
もっと贅沢を言えば、そのコンボパーツになるカードがオラクル、アンノウン、ゼニスのいずれかであれば、連鎖的に展開も可能になるだろう。
ゼニスは大型クリーチャーばかりなので、いったん、オラクルの中から候補を探してみたいところだ。
が、これが無い。本当に無い。
そもそも、自分のシールドをブレイクするクリーチャーというのは、かなり稀な存在だ。
最近、《音感の精霊龍 エメラルーダ》がシールドをブレイクするテキストへと変更されたが、それを踏まえてもなお、数は少ないのだ。
では、ゼニスであれば?
実は、ゼニスには自分のシールドを手札に戻し、しかもシールド・トリガーまで使えるという、抜群の相性を誇る存在がある。
だが、この方法を使うにしても、結局9マナが必要だ。
アタック・チャンスを使えば話は別だが、そのためにはアンノウンを別途用意する必要がある。
この場合、コンボパーツが1枚増える事になるので、できれば避けたいところだ。
それに無色のカードというのも、デッキ構築の難易度を上げる要因になってしまう。
このデッキはマナのカードを裏向きにしていくというギミックを使うため、マナの色を確保する事が、普通のデッキ以上に重要となる。
よって、無色のカードを増やしすぎると、序盤の安定性が大きく損なわれてしまうのだ。
何か他に、《「獅子」の頂 ライオネル・フィナーレ》を出す方法を探さなければならないらしい。
そんな問題を解決するためのカードが、当然ながらゼニスをフィーチャーした今回のセットに収録されていた。
それが《クリスタル・ドゥーム》だ。
両方が呪文という、一風変わったツインパクトカード。
軽量側は手札を整えつつ裏向きのマナを増やすというスペックのため、序盤でも活用しやすい。
そして重量級の方は、なんと手札のアンノウン、ゼニスを好きな数、コストを支払う事無く”召喚”するというものだ。
これであれば、《「獅子」の頂 ライオネル・フィナーレ》どころか、《「俺獅」の頂天 ライオネル》すら同時に踏み倒す事も可能だ。
この呪文は、同じセットに収録されている《ローゼス・イノベーション》と組み合わせて唱える事が可能という、裏技がある。
《ローゼス・イノベーション》は受け札にもなり、しかもコスト6と手打ちが現実的なコストのため、一見するとかなり現実的な裏技に見える。
しかし、その条件を達成するために水晶武装4を達成する必要があり、しかも踏み倒し先のゼニスまで手札に抱える必要がある。
さすがに、これだけの条件を達成するのは、かなり難しい。
よって、この呪文を唱えるための他のアプローチを探す必要があるのだ。
この呪文自体には軽減能力は無いので、これを唱えるには、他の方法で軽減するか、コストを踏み倒して唱える必要がある。
そして、その手法さえも、分かってましたとばかりに、今回のセットに収録されていた。
そのカードは《水晶の王 ゴスペル》と《偽りの名 リベルラ》だ。
《水晶の王 ゴスペル》は、アタック時に手札の呪文を踏み倒す事が可能なアンノウンだ。
そのうえ、墓地の呪文の数だけコストが軽減され、出た時に墓地の呪文を好きなだけ手札に回収する事まで可能と、至れり尽くせりなクリーチャーである。
《偽りの名 リベルラ》は、水晶武装を達成することで、呪文のコストを4も軽減する事が可能なクリーチャーだ。
しかもブロッカーであり、相手が最初に使うカードに選ばれないという除去耐性まで持っている。
それに加え、自身で裏向きマナを増やしていく性能まで持っているため、このカード1枚で裏向きマナを2枚は獲得する事が出来るだろう。
このカードでコストを4軽減したら、《クリスタル・ドゥーム》も7コストで唱える事が可能になる。
ここまで軽減できれば、手打ちで唱える事も現実的だ。
これらを両方搭載したデッキを組めると良いのだが、裏向きマナを増やすカードをデッキに入れる都合上、両方を活かせるデッキに仕上げるのは困難であった。
まず、《水晶の王 ゴスペル》を出すには、コスト軽減を活かす必要がある。
よって、呪文の比率を上げる必要があるのだが、踏み倒すゼニスが呪文では無い事と《水晶の王 ゴスペル》も同じく呪文では無い事から、デッキの呪文の比率がどうしても低くなってしまうのだ。
そのため、踏み倒すルートを考え《ヘブンズ・ゲート》の採用を検討したが、《水晶の王 ゴスペル》が次のターンまで生き残ってくれる必要があるため、安定しない。
以上の事から、焦点を向けるべきは《偽りの名 リベルラ》の方だと考えた。
こちらは除去耐性を持ち、しかもコストを支払って出す事に大きな問題が無いクリーチャーなので、かなり安定した動きが狙えるはずだ。
コスト6というと少し重く見えるが、《シャングリラ・クリスタル》というマナ加速がある関係上、通常のデッキより1ターン早く着地を狙える。
そして、先にも述べた通り、このクリーチャーは水晶武装4という少々重い条件があるものの、自身の能力で裏向きマナを増やせるため、序盤の動きが鈍ったとしても、十分に条件達成を狙えるカードでもある。
という訳で、こちらのアプローチが安定しそうだ。
おおよそのコンセプトは整った。
水晶武装を達成するために裏向きのマナを増やし、《偽りの名 リベルラ》を出して呪文を軽減し、《クリスタル・ドゥーム》でゼニスを踏み倒す。
ここから《「俺獅」の頂天 ライオネル》と《「獅子」の頂 ライオネル・フィナーレ》を繰り出す事で、大量の踏み倒しを連鎖的に狙っていくのだ。
ここまで書いて、気付いた人も居るだろう。
こっちでよくね???
そう、普通に踏み倒すのであれば、シールド全てをシールド・トリガーにする、こちらの方に軍配が上がってしまうのだ。
これでは、《「俺獅」の頂天 ライオネル》を活かしたデッキとは到底言えない。
このカードを活かすには、このカードの長所を活かす必要がある。
つまり、このカードを手札からコストを支払って出すルートを確立すべきなのだ。
どうするか? 答えは簡単だ。
光単で組むしかねえ。
水という英知に頼りすぎると、目的を見失ってしまう。
考えすぎも良くない、という良い例かもしれない。
さて、光単色でゼニスのデッキが組めるのか? という疑問がある。
一番の問題は、手札の問題だ。
水文明のカードは、多少なりとも手札補充があるため、コンボパーツを集める事が可能だ。
しかし、光文明はドローを得意とする文明では無い。全くない事は無いが、それはクリーチャーを繰り出す事で継続的に補充していく方法だ。
一度に大量の手札を補充できる方法があれば、この弱点を克服できる。しかし、そんなカードがあるだろうか?
問題はまだある。
どうやって、自分のシールド・トリガーを発動させるか、だ
このコンボの始点は《ライオネル・フィナーレ》だ。
よって、これを何とかして出す方法が必要になる。
しかし、そのために《クリスタル・ドゥーム》を使っていたのに、光単ではそれが出来ない。
この、一見すると解決が困難に見える問題を一気に解決するカードが、実は最新弾に収録されているのだ。
そんな凄いカードが、この2枚だ。
《黙示録の水晶》は、水晶ソウル3を持つ10コストの呪文。
裏向きのマナ3枚と、あと1マナあれば唱えられる全体除去だ。
だが、注目すべきは全体除去という性能ではない。この呪文には、しれっと「カードを3枚引く」と書かれているのだ。
すなわち、状況次第では4コストで全体除去をしながら3枚カードを引くことができる、とんでもないカードなのである。
しかも無色なので、光単というデッキであっても、裏向きのマナさえ確保できれば問題なく使用可能だ。
《偽りの名 パピロニア》は、光のアンノウンである。
自軍のクリーチャー全員を、バトル中破壊されなくする能力を持つ、かなり強固な除去耐性を持っている。
今回注目するのは、水晶武装4の能力だ。
なんと、タップするだけで自分のシールド2枚をブレイクし、手札2枚を新たにシールド化する事ができる。
タップした時なので、少しタイムラグはあるものの、《音感の精霊龍 エメラルーダ》2体分と考えれば、かなり強力である。
まさか、これほどまでにお膳立てされたセットだとは思わなかった。もう、このパックから出るカードだけで、十分デッキになるレベルだ。
という訳で、役者も揃ったところで、デッキにしてみよう。
デッキリスト
という訳で完成したリストが、こちらだ。
大半が、というか32枚も、最新弾に収録されているカードだ。
このデッキの狙いは《「俺獅」の頂天 ライオネル》でシールド・トリガー化した《「獅子」の頂 ライオネル・フィナーレ》を繰り出し、そこから連鎖的にアンノウンやゼニスを展開、《シャングリラ・ファンタジア》で一斉攻撃を仕掛ける事だ。
コンボの始動は《偽りの名 パピロニア》が担ってくれる。
起動こそタイムラグはあるものの、バトルでは破壊されない除去耐性を持つため、多少は盤面の維持が可能だろう。
万が一除去されても、本命の《「俺獅」の頂天 ライオネル》が通れば、コンボを無視して殴り切るルートに切り替えても良い。
なにせ、大型ゼニスの大群を並べる事が可能なのだ。そうそう容易くは突破される事は無いだろう。
《ライオネル・フィナーレ》から次々にゼニスが連鎖すると、気持ち良い事この上ない。
しかし、注意しなければ一気にデッキが削れてしまい、気が付いたらデッキ切れ、という事もあり得る。やり過ぎには注意だ。
忘れがちだが、《「俺獅」の頂天 ライオネル》は、自身のオラクル、アンノウン、ゼニス全てにシールド・トリガーを与える。
何を忘れがちかというと、クリーチャーでなくともシールド・トリガーになる、という事だ。
《黙示録の水晶》はゼニスを持つ呪文のため、こちらもシールド・トリガーとなる。受け札として出てきたら、相手の戦線をズタズタにしてくれるだろう。
そのうえ、手札まで補充してくれるのだから、これほど頼もしいものは無い。
《黙示録の水晶》は、裏向きのマナさえ揃えれば、手札から普通に唱える事も十分可能だ。
手札補充として使っても良し、相手の盤面を一掃するために使っても良しと、良い事尽くしだ。
受け札は、《「俺獅」の頂天 ライオネル》や《偽りの名 パピロニア》を踏み倒せる《ヘブンズ・ゲート》を採用している。
踏み倒せるカードの枚数は少ないが、出てくるとたちまち戦線を押し戻す力を持つカードが出てくるので、受け札としての機能は十分だろう。
強力な受けを携え、突然連鎖的に出現するゼニスの前に、大抵の相手は対処できずに押しつぶされるはずだ。
さあ、今こそ頂天(ゼニス)の力を味わおう。
終わりに
今回は最新弾から、ゼニスを使ったデッキを紹介した。
本セットは、収録されているカードだけでデッキが組めるほどに、内容が充実している。
その分、専用のデッキに特化する必要のあるカードばかりのため、裏を返せば、それら以外の構築では見かける可能性が少ないとも言える。
しかし、思いがけないところに拡張の余地があったりと、侮れないパックでもあるのだ。
発売直後に少しだけ環境に顔を出してはいるが、もしかしたら、すぐに消えてしまうかもしれない。
が、そこで研究の手を抜いてしまうのももったいない。それほどまでに、未知の可能性を秘めたカード達でもあるのだ。
事実、《虚言の凶気サイコホラー》と、新弾のゼニスD2フィールドを組み合わせたデッキも出現しており、まだまだ研究の余地はあると言える。
目に見えているだけが全てでは無い。それが、ゼニスなのだろう。