何度でも訪れたい場所
「で、結局、なんでこんなところに来てるんだっけ、俺達。」
「そりゃ、お前がやめればいいのにあのおしゃべりノームの挑発に乗るからじゃろ。」
落とし穴にハマりながら、親切に思い出したくもない過去を突きつけてくるのは、相棒(と言っても過言ではないほどの仲)であるところのドワーフ・ウィザードのガムジンだ。
いつだってガムジンは現実主義だ。そして俺は現実に押しつぶされそうに、いや、落っことされそうになりながら落とし穴に抗っている。おい、やべえぞ、底にはトゲトゲが生えている。あれに刺さったら間違いなく死ぬ。
「知ってるか?このバルダーズ・ゲートから東に行った小高い丘で見つかったダンジョンの話。」
前に稼いだ報酬でささやかなディナーを楽しんでいるテーブルに、おしゃべりで小うるさいノームのカキードが来やがった。
「ああ?知らねえよ。興味ねえから向こうのテーブルに行きな。」
俺は本気で聞きたくなかった。
「向こうったって誰もいないからよ。まあ、そういう風に邪険にしてくれるなよ。ああ、そうだ、この話は知ってるか?奥にはとんでもねえお宝があるらしいってよ。」
「知らねえって。どんなお宝だって、しばらくは必要ねえしよ。」
「そんなこと言って、ツケが溜まってきてんだろ?知ってるんだぜ。」
「なんで俺のツケ事情なんか知ってるワケ?それを知ってどうするってんだよ。」
「そのうち、どの店からもツケ払ってくれって言われるようになるぜ……。」
「なんでそんなことお前に心配されないといけねえんだ。」
「ここいらでドカンと稼いでおく必要があるんじゃないの?」
まあ、考えてみれば、前の仕事からはまぁまぁの時間が経っており、お財布も心もとなくなってはいた。
「新しいダンジョンだったらさ、まだお宝がガッツリあるにちげえねえぜ。」
「そうかもしれんな……。」
「おヌシ、またそんな……。」
「じゃあ、自慢話、楽しみにしてるぜ。」
しかたねえ、ポーションとか買い揃えねえと……。
「以上、回想だぜ。」
「誰と話してるんじゃ。」
「それより、いきなりポーションを使うことになってしまったんだが。」
トゲトゲのおかげで思った以上の傷を追うことになった俺達はポーションを早速がぶ飲みすることになってしまった。鎧のおかげでいきなり死ぬことだけは避けられた、と思いたい。
「最初の分かれ道で曲がって進んだだけでこれだぜ……。どんなところなんだ、このダンジョン。」
「込み入ったつくりには感じんがのう。逆にダンジョンでこれだけ簡素なつくりなのが気になるが。」
まあ、どう考えようと、財宝を頂いて帰るという目標をどうこうするものではないんだが。
「明かりが足りんから、《ライト》を掛けるぞ。」
ガムジンが指を振ると、スタッフの先が輝く。地面が見えないほどではないが、辺りの視界が良くなる。
回廊が狭いので、ロングソードを鞘に収め、フレイルを装備し直す。大きくは振れないが、遠心力で打撃力は稼げるはずだ。
ガムジンに先行を任せながら装備を確認し直す。
新たな扉の前に到着し、ガムジンが扉を眺めていた。
「どうするんじゃ。」
「うーん、ピケがいりゃあ、聞き耳でもしてくれるんだがなあ。」
「お前さんが取り分が減るとかごねるからじゃろ。」
「まあ、しかたねえ、扉を開けるぜ。」
中は広い部屋になっており、広めのテーブルが置いてある。テーブルの上には雑然とカードがばらまかれ、ゲームの途中であるような印象を受けた。
椅子が2つ置いてあるところを見ると、この部屋を使っていたのは二人であったようだ。
「誰もいねえぜ。」
「ふうん、誰かいたような雰囲気はあるけどな。」
ガムジンがスタッフを振りながら部屋の様子を確認する。おや、部屋の端に何かあるような。
そちらへ近づいてみると、いわゆる宝箱、チェストボックスという風体の箱が置いてあるのが見えた。
「まあ、目に見えているものには何もないってのが相場だが。」
「開けてみないことには、なんにもわからんぞ。」
ガムジンがスタッフで蓋を叩く。ぽこぽこと音がする。
「まあ、開けてみるか。」
なかなかどうして、箱の中身は見当たらず。すでに誰かが持ち去ったか……?
「そういう可能性もあろうな。」
「実入りが無いと困るんだが。」
と、思った次の瞬間、奥の扉が開く。
「ゲゲッ?!」
顔に鱗をびっしりと生やした……なんだあれはトカゲの親戚か?
「トログロダイトっちゅうんじゃ。内陸でばかり戦っておるからのう、お前さん。」
「へいへい、〈自然〉も取るようにいたします。」
三叉鉾を振りかざし、複数のトログロダイトが部屋に押し入ってくる。ガムジンを後ろに回し、俺が前に出る。フレイルを振り、トログロダイトたちとの戦闘が開始された。
「さて、俺達が敗れる可能性はどれほどあったのでしょうか。」
「たった二人で5匹を相手にすりゃあ、敗れる可能性は十分にあったわい。」
「あの顔を見たら部屋の中では戦わないと心に決めたぜ。」
トログロダイトは思いっきり臭いガスを周囲に撒き散らす性質があるらしく、目に染みるガスとも戦いながら、奴らとも戦う必要があった。おかげでフレイルは思いっきり地面を叩くし、槍で脇腹は突かれるし、散々だったぜ。
「しかし、まあ、奴らが持って歩いておった、ホレ。」
「初めての実入りってやつだな。」
奴らは宝石の他に、魔法のスクロールやなんやらを持ち歩いており、空振りだった《宝箱》の穴埋めをしてくれる形になった。
「助かるぜ。まあ、しかし先があることがわかってしまったからには、先へいかねばなるまい。」
ガムジンがやや呆れた顔をして、立ち上がり、奥の扉へと進んだ。
「おいおいおい、面白ダンジョン始めましたじゃねえか、困るぜこういうのは。」
「おヌシ、急に何を言い出したんじゃ?」
次の扉を開けて目に飛び込んできたのは海だった。
え?海?
ダンジョンでしょ?ここって。
間違えました?私。
「なんで現実から目をそらしているんじゃ?」
「いやあ、だって、おかしいでしょ。」
話している間にも、海の中からは触手が俺達を攻撃し始める。
「なんか出てきたんだが!?」
「海があるんだから、もう何が出ても驚かんよ、ワシは。」
前方ロールで俺を的確に攻撃してきた触手を避けながら、背中に背負っていたシールドを左腕に装備する。気合を入れてフレイルを振って触手に当ててみたが、ブヨブヨとした感触だけがあり、どうにも手応えが無い。
「なんかやってくれるんじゃないの。ウィザードとしては。こういうとき。」
暗に呪文での攻撃を要求する。
「それは暗に要求しているのではない。直接的に要求しとる。」
そう言いながらも、ガムジンがスタッフを振り、魔力の矢を放つ。
《マジック・ミサイル》が命中し、えーと、イカの焼ける匂いがしてくる。
「うまそうだな。」
「おヌシ、そんな余裕は……。」
刹那、触手がガムジンの脚に絡みつく。
「言わんこっちゃない!」
ガムジンが毒づいた。
フレイルを投げ捨て、ロングソードを引き抜く。水面から出ているガムジンを絡めた触手を狙って斬りつける。
柔らかいものを大きく引き裂いた手応えがして、ガムジンが地面に打ち付けられた。
「ちょっと海水浴には早いもんな。」
「お前さんが、よそ見しとるからだろ!」
部屋の真ん中にある、ポータルから、ゆっくりと触手の主が身体を持ち上げるのが見える。
「クラーケン、だっけ?」
「よくわかったの。」
もっと強い個体であれば、あれの二倍以上の大きさがあるはずだ。
「押し込めると思うか。」
「この部屋に海を発生させとる仕組みがあるはずじゃ。それをなんとかせい。」
「お前がやってくれたらなあ。」
「まあ、この場合仕方ないの。」
ウィザードのガムジンでは、あの怪物の注意をひきつけながら時間を稼ぐのは無理だということだ。
第一、俺は頭を使うのは苦手だ。
「じゃあ、そういうことで。」
シールドを前にして、怪物へダッシュする。剣ではなく、盾での打撃。
剣を多用しすぎて、剣を失うことの方が問題に思われた。
ガムジンは、部屋のあちこちを調べ始めた。
早くしてくれよ……どっちにしろ長くはもたん気がする。
「これじゃあ!」
ガムジンが水の中に手を突っ込んで、何かを取り上げた。
ず、ずと音が響き、水が部屋の中央に引きずり戻されていく。
水とともに、クラーケンが穴の中へ押し戻されていく様子が見える。
弱い個体とはいえ、一人で引きつけるのは、正直難しすぎた。
ポーションを左腕に直接かける。触手で盾を引き裂かれ、腕もしこたま叩かれた。しんどすぎるぜ。
ガムジンは、手に小さな板のような黒い石を持っていた。
「このマジック・アイテムがポータルに魔力を供給し、ポータルが活性化していたんじゃ。ポータルの先は運悪くなのか、運良くなのかはわからんが、あの怪物どもの領域だったようじゃな。」
「全く興味ないぜ……。」
丘の上のダンジョンの中で、俺達はマリン・アドベンチャーを楽しむ羽目になっちまった。
「まあ、そう腐るな。このアイテム、これだけの魔力であるからには、相当な値打ちもんだろう。」
小さな、この黒い板にどれだけの価値があるもんだか……わからん。
「とにかく帰ろうぜ。もう懲り懲りだ。」
「おヌシは毎度そうじゃのう。」
潮水まみれになったフレイルを拾い上げながら、俺達はバルダーズ・ゲートへ帰るのだった。
〈了〉
セクシーパラディン!!(統率者デッキ)
みなさん、こんにちは!
前回、ゲームブック仕立ての記事を書き上げたら虚脱状態に陥って、なんもできなくなってしまった妄想殿下です。
そして、その虚脱状態を救ってくれたのが……『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』です。
すげえよ、この映画!
どうせ、コテコテのファンタジー映画になってんでしょ……いつもの勧善懲悪的なファンタジーですー、冒険ですーって感じの映画なんでしょって思ったんですよ。
もうね、全然違うんですよ。
何がヤバいって、「あ、これ、完璧にTRPGのリプレイ映画だ。」ってわかる所!!(もちろんそういう風に作ってるんだと思うんです)
映画として組み上げられたシナリオじゃない、映画の画面に登場しているキャラクターたちの向こう側(あるいは内部)にプレイヤーたちがいて、
ダイスを振ってるんだろうなっていう感じ?もう、それがビンビンに伝わってくる!!
映画をみてね、「こういう場面が緊迫感があってよかった。」「この場面で感動した。」みたいな感想が出てくると思うんです、普通ね。
でも、この映画を見て、「多分、このソーサラーのプレイヤー、DMが「え、本当に乗るの?大丈夫?」って聞いてるのに、「乗ります!」つって石の上に乗ったな。」って感想が出てくるの、マジで。
おおよそまともな映画の楽しみ方じゃないでしょ。
でも、もちろん、映画としてのストーリーの筋はあるし、それはしっかりしている。
しかも、ストーリーは本当に王道。現代のたくさんの問題に挑むようなものじゃない。DMがみんなと遊ぼうと思って用意してくれた楽しいシナリオだよ。
それをもう、これでもか!ってくらい食らわせられるのがこの映画D&Dなわけです。
まだ、上映している映画館、ございますので是非見に行ってください。
そんな映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』のキャラクターたちがSecret Lairでカード化される!
もうデッキを組まずにはいられないでしょってことで、映画の中でも注目株、「セクシーパラディン」の名前で全国の乙女たちのハートをもぎもぎにもぎ取った
ゼンクでデッキを組んでみました。
デッキリスト
セクシーパラディンのキーカード
さて、《Xenk, Paladin Unbroken》のデッキを構築するにあたって、中心にしたい能力はやはり
「あなたのコントロールするオーラは賛美を持つ」ですね。
賛美自体は、他のクリーチャーが単体で攻撃しても誘発するのですが、二段攻撃を持つ《Xenk》を生かさない手は無いです。
そこで、エンチャント - オーラを多くデッキに投入することになるのですが、それだけではリソースの補充が問題になってきます。
基本的には1ターンに1枚のドローなのですが、それでは統率者戦ではすぐに息切れしてしまいます。
ですから、他の相手とも渡り合うにはドロー手段が必要になるのですが、白は性質上、ドローが苦手です。
そこで、デッキの中心になっているエンチャント - オーラをドローソースに変えることができるカードを採用しました。
《上級建設官、スラム》はオーラの他に装備品でもドローすることができるので、非常に重宝します。
また、このデッキは統率者による戦闘での勝利がほぼ唯一の勝利手段であるため、自分の優位を守るために、スタックス戦略を採用しました。
その最たる呪文が《ハルマゲドン》で、優位な状況を作り出すことができたらすべての土地を破壊することで、その優位を守ります。
今回のデッキには採用させてもらったのですが、土地破壊は非常に忌み嫌われる手段で、ハルマゲドンはその効果ゆえにあまりにもあまりなので、遊ぶ相手などに確認した方が良いかもしれません。
それでなくても、《三なる宝球》や《弁論の幻霊》などで、かなりキツめの制限を相手にかけるので、《ハルマゲドン》は別のカードにしても良いかもしれません。
スタックス系のカードはかなりヘイトを集めやすいので、使いどころは慎重に選んだほうが良いプレイングになると思います。
単色のスタックス系デッキはやることが単純である分、プレイングを練習すると良いと思います。
最後に紹介した《霊魂のマントル》は「プロテクション(クリーチャー)」を得られるエンチャント - オーラ。
クリーチャーからのプロテクションがあれば、ブロックされる心配はほとんどなくなりますから、このカードをトドメ用に持っておき、最後のひと押しで使えるようにしておきましょう。
まあ、他のオーラについても同様です。
このデッキ全体の戦略としては、もちろん《Xenk》をオーラ呪文で強化し、殴る!というものなのですが、初期の段階から漫然と統率者を戦場に出して殴るだけですと、
後半息切れしてしまう、もしくは危険因子と他のプレイヤーに目されて封じ込められてしまう可能性が非常に高くなります。
なので、統率者と強力なオーラについてはなるべく温存し、ワンショットでプレイヤーを落とせるようなプレイングを目指しましょう。
クリーチャーや装備品を場にそろえてプレッシャーを与えるゲーム展開を進めて、オーラを温存してフィニッシュに繋げるのはどうでしょう。一撃で対戦相手を落とせるかもと思うとワクワクしてきませんか?
装備品はクリーチャーが落とされても戦場に残るので展開しておき得です。
今回のリストには入れていないのですが、《純鋼の聖騎士》を採用して、装備品をタダで装備できるようにするのも良いかもしれません。
統率者を展開してから一気に装備して強化しましょう。
終わりに
《Xenk, Paladin Unbroken》を統率者にしたデッキを紹介させていただきました。
D&D限定構築もやろうと思ったのですが、単色統率者だと、カードの種類があまりにも足りず、「ただ白のカードを全部詰め込みました」というデッキになってしまうので今回は見送りました。
もっとD&Dコラボセットを……頼みます!ウィザーズ・オブ・ザ・コーストさん!
映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』コラボのSecret Lairは他にも映画で活躍するキャラクターたちがカード化されていますので、
是非他のカードでもデッキを考えてみてください!
あとはまあ、マジック:ザ・ギャザリングのカードになったクリス・パインってだけでもかなり良いアイテムなのでオススメです。
それではまた、「統率者をめぐる冒険」でお会いいたしましょう。