牢獄でもあり、我が家でもある
ゲームに勝つ鉄則
魔人探偵脳噛ネウロという漫画で、このようなセリフが存在する。
”勝負事に勝つ鉄則は… 敵が最も嫌がる事をやり続ける事”
この言葉はかなり確信を突いており、当然、デュエル・マスターズでも通用する考え方である。
つまり、相手が最も嫌がる事…相手を勝利から遠ざける、あるいは自分が勝利へ近づく事…をやり続ける事が、勝負事において勝つための鉄則なのだ。
では、具体的にどうしたら良いのか? と思った人も多いだろう。
典型的な例を挙げるなら、メタビートが良い例と言えるだろう。
序盤から相手の動きを制限するカードを繰り出し続け、相手に対処を迫り続けるデッキだ。
メタビート以外なら昨今の環境を支配しているサガループも、この例に漏れないデッキと言える。
最速3ターンでゲームを終わらせられるこのデッキは、2ターン目に唱えられる《エマージェンシー・タイフーン》すら、相手に対処を迫るカードになるのだ。
相手に対処を迫る、というのは、相手がそれだけ嫌がる動きだという事である。
それを早期から毎ターン相手に突き付け続ける事が出来るデッキ。それこそが、勝利に近いデッキと言えるはずだ。
そのために必要なパラメータ、それこそが”悪意”
ヒーローズ・ダークサイド・パックが発売されてから数日後に、あるデッキを考えていた。
何とかして、《鬼ヶ英悪 ジャオウガOG》をうまく使えないだろうか?というデッキだ。
ジャオウガと言えば十王編、そして王来MAXでラスボスとして活躍したクリーチャーである。
まさに悪役と呼ぶに相応しいキャラクタ性と、鬼札王国やその他の派閥を統率するカリスマを兼ね備えた、理想の悪と言える存在だ。
そんなジャオウガの別の姿である《鬼ヶ英悪 ジャオウガOG》も、鬼札王国の系譜である鬼エンド能力を有しており、誰かのシールドが無い状態でクリーチャーが攻撃すると、0コストで召喚する事が可能となっている。
このカードでデッキを作る過程で考えた事は、対抗馬である《百鬼の邪王門》との差別化である。
《鬼ヶ英悪 ジャオウガOG》は、《百鬼の邪王門》と同じタイミングで使える鬼エンドを持つカードである。
しかし、不確定とはいえ、《百鬼の邪王門》の方が出力は高い。そのため、このカードと差別化を図るのであれば、《百鬼の邪王門》ではダメなデッキを考える必要があった。
そこで考えたのが、《ルピア炎鬼》を据えて攻撃するデッキである。
《ルピア炎鬼》は、お互いに召喚以外の方法でクリーチャーを出す時、代わりに墓地へ送ってしまう能力を持っている。
そして《鬼ヶ英悪 ジャオウガOG》と《百鬼の邪王門》の違いは、召喚か否か、という点なのだ。
つまり、《ルピア炎鬼》で召喚以外の展開を封じ、自分は《鬼ヶ英悪 ジャオウガOG》を出して攻める、という構図が出来上がるわけだ。
これならば、従来の邪王門系統のデッキとの差別化を図ったうえ、《邪王門》の踏み倒しを封じながら殴り込める鬼タイムデッキ、という新たな形を確立する事ができる。
結局、このデッキは没案になってしまったものの、このデッキを作った際に一つの教訓を得る事が出来た。
それは《ルピア炎鬼》が思っていた以上にメタとしての性能が高いという事だ。
現在のデュエル・マスターズは、踏み倒しが横行する環境である。《百鬼の邪王門》然り、【サガループ】然り、《ASMラジオ》然り、踏み倒しにより機能するデッキが多い。
という事は、《ルピア炎鬼》を出すだけで機能不全に陥るデッキが多いのだ。
そのうえ、《ルピア炎鬼》はパワー5000とかなり高めのパワーラインを持っている。
このパワー5000という数字は《絶望と反魂と滅殺の決断》のパワー低下1回では倒されず、《九番目の旧王》の全体マイナスでも倒されない。
場持ちの良い、しかも多方面に刺さるメタクリーチャーという事で、このカードを採用したメタビートが組めないか? という発想に至ったわけだ。
その構築の原型として参考にしたのが、通称”ほんまかいな邪王門”と呼ばれるデッキであった。
このデッキの中身はというと、大雑把に言えば、邪王門を受け札として採用したメタビート、である。
メタビートはその宿命とも言えるデッキの特性上、一度相手に戦況が傾くと、それを覆す事が難しいという弱点がある。
しかし、このデッキは《百鬼の邪王門》+《バサラ》により、一度相手に傾いた戦況を覆す事が可能になっているのだ。
その強さは見ただけでは分からない点が多いが、CSで上位に入ったり超CSでも通用したりと、かなりポテンシャルの高いデッキである。
これをベースに《ルピア炎鬼》を組み込めば、更に相手を縛り上げながら攻め込めるデッキが組めるのでは、と考えたわけだ。
まず改造案として、元のデッキは水・闇・火の3色であったものの、水で強力なカードが《奇天烈シャッフ》《異端流しオニカマス》の2種であるように感じられた事から、思い切って闇・火の2色に絞る事とした。
また、《ルピア炎鬼》と《百鬼の邪王門》の噛み合いが致命的に悪いことから、《百鬼の邪王門》を採用しない構築を目指すという方向性も決まった。
ここから導き出される構築は、狂気ともいえる”邪王門抜き邪王門”というデッキである。
自分でもこの案は疑わざるを得なかったが、元のデッキの動きを知っている以上、この案は確かに弱くないはずなのだ。
この構築にする以上、元のデッキが持っていた”一度傾いたゲームをもう一度自分の側に傾ける”が出来なくなるため、相手にゲームの主導権を握らせない事が、より重要となる。
この時点で、デッキの主な方向性は決まったも同然だ。
メタクリーチャーを並べて、早期に決着をつける。
早期といっても、火単ほどの速度は出せないので、目指すは4~5ターン目だろう。
そういう訳で、まず作り上げたプロトタイプがこちらになる。
コンセプト上、どうしても火単速攻に対してのガードが低すぎるため、《ザンジ変怪》による受けのかさ増しを図った。
結果的に、この受けはすぐに抜ける事となった。
このカードが絡んで火単速攻に勝つためには、最初の1点でシールドから闇のカードを引き当てる必要がある。
その時点で《ザンジ変怪》を手札に抱え、かつシールドの1枚目から闇のカードを引く確率は、この《ザンジ変怪》の枠をシールド・トリガーにした場合と大差無い事に気付いたのだ。
そのうえ、シールド・トリガーであれば、手札に抱える必要も無いため、手札リソースを圧迫する事も無い。
よって、《ザンジ変怪》は没となった。
では、火単速攻に対する対抗策としては何があるのか? という点が課題となった。
このデッキを調整していたのは、GP直前の期間。環境の上位に火単速攻が入り込んでいた時期であり、ほぼ全てのデッキに対して不利では無いという、絶好の立ち位置に居た。
当たらない事は無いだろう、ということが容易に想像できるわけだ。
そのため、対策しないという考えはほぼ無かった訳で、その中で候補に挙がったのがこのカードであった。
《鬼ヶ羅刹ジャオウガ》である。
一見すると対策になってないように思えるが、このカードを含めるとガード・ストライクが9枚以上入る事になる。
これにより、火単速攻の攻撃を首の皮一枚で食い止め、鬼タイムを達成した《鬼ヶ羅刹ジャオウガ》を0コストで召喚、そして2マナで《我我我ガイアール・ブランド》と繋げば、カウンターを決める事が出来るのだ。
火単速攻以外の対面にも出せる可能性も十分にある事から、このデッキにおいて、このカードが火単速攻への決戦兵器となる事は確定的に思えた。
しかし、このカードにも問題があった。
それが、多色カードの枚数である。
このデッキの動きの特徴として、2ターン目以降は常に新たなクリーチャーを送り込み続ける必要がある。
初動が3ターン目では、先に相手に動かれてしまい、”敵が最も嫌がる事をやり続ける”ことが困難になってしまうのだ。
よって、このデッキで多色カードをマナゾーンに置けるタイミングは、最初の1ターン目のみ、なのである。
このことから、多色枚数を極力削る必要があり、その許容枚数が《影速ザ・トリッパー》と《ルピア炎鬼》の計8枚のみ、であった。
多色カードである《鬼ヶ羅刹ジャオウガ》は、この理由により入れる事が困難となってしまったのだ。
では、この問題をどうやって解決するか?
その答えは至極簡単であった。
当たらなければ誤差である。
GPという大型大会は、その特性上、あらゆるタイプのデッキと遭遇する。
裏を返せば、同じデッキと当たり続ける、というのは非常に珍しいという事だ。
結果だけを先に述べると、GPで火単速攻には一度も遭遇することなく終わる事となった。あれだけ最大母数を誇っていたのに、だ。
このことから、特定の一つのデッキに対してデッキの枠を割くより、他のデッキへの出力を維持する構築の方が、このデッキにとって理想だろうという結論に至った。
また、火単速攻が環境に跋扈していた状況から対策されており、上位に上る前に沈んでいるのでは? とも考えていた。
そうなれば、勝ち続けることで火単速攻に当たる確率も低くなり、相対的にこのデッキの立ち位置も良くなるはずなのだ。
最初に負けてしまったら地獄を見る事になるが、そうなったら割り切ろう、という結論だ。
さて、そうするのであれば、このデッキの出力を維持する、あるいは上げるカードを探す必要があった。
そんな中で白羽の矢が立ったのが、《ブランド-MAX》だった。
このカードと他のクリーチャーだけで、一気に4点もの打点を作り出す事ができる。
2ターン目にクリーチャーを出し、3ターン目に追加のクリーチャーを送り込んで1枚ブレイク、そうすると4ターン目に相手にとどめを刺せるだけの打点を揃える事が出来るのだ。
そのうえ、出してしまえば受け札としても使え、手札に追加の《ブランド-MAX》があれば、その分さらに延命が可能だ。
実際に回していた際も、このカードで勝ち切る事も多く、非常に理想的なフィニッシャーであった。
しかし、やっている事は打点の向上だけであり、敗北回避を使う機会は非常に少なく、本当に《ブランド-MAX》で良いのか? という疑問は最後まで残っていた。
そんな中、GP一日目の終わり際、このデッキに相応しいフィニッシャーの存在を知る事となる。
それこそが、《烈火大聖ソンクン》だ。
自身の攻撃時、あるいは自分のクリーチャーが破壊された時
①ブロッカー破壊
②コスト3以下のクリーチャー破壊
③コスト3以下のタマシード破壊
④相手のシールドを1枚ブレイク
のうち、どれか1つを使う事が出来る超優秀なクリーチャーだ。
しかも、スピードアタッカー持ちである。大盤振る舞いにもほどがある。
このデッキの《烈火大聖ソンクン》は、横に並んでいる厄介なクリーチャーを除去すると、どういう訳か除去やシールドブレイクが飛んでくるという、相手にとってこの上なく厄介な存在となってくれる。
そのうえ、出て攻撃するだけで相手の小型を破壊できるため、間に合いさえすれば、火単速攻への回答にもなり得る。
打点の形成能力で言えば《ブランド-MAX》の方が上であるが、こちらの方が幅広い対面に致命傷を与える事ができるため、採用に至った。
他にも色々と試行錯誤した事はあるものの、書いていくと記事のボリュームが倍以上は長くなるので、そこは割愛する。
あとは、実際にGPで使ったリストと、直近で使ったリストをご紹介しよう。
デッキリスト
まず、こちらがGPのオリジナルで使用したリストになる。
《サガ》が多い事は明らかだったので、そちらに寄せて《コッコ・武・ルピア》を採用。
また、4c邪王門が増えていた時期でもあるので、攻め込む際に使える札を増やすために《単騎連射マグナム》も採用している。
闇文明のカードが16枚という事が気になるかもしれないが、これは綿密に練った果てに辿り着いた枚数である。
《星空に浮かぶニンギョ》は、2ターン目から相手のマナ加速を咎めるカードである。
そのため、2ターン目に出したいカードではあるのだが、2ターン目にこれを出したいのであれば、闇のカードは18枚以上は欲しいところである。
では、なぜ16枚なのか。
その理由は、《星空に浮かぶニンギョ》を2ターン目に出すのは後手の場合だから、である。
というのも、先手を取った場合、このカードよりも《影速ザ・トリッパー》を優先して出す事が多い。
むしろ、先手であれば《影速ザ・トリッパー》の方が強いとさえ言える。2ターン目に出すのは、他のメタカードや、《カンゴク入道》で十分なのだ。
となると、後手で2ターン目に出せれば良い。その結果、ギリギリの闇文明16枚という構築に落ち着いたのである。
また、闇のカードを増やしすぎると、《我我我ガイアール・ブランド》を出しにくくなるという問題も発生する。
このカードで4ターン目に攻め込むには、2コストの火のクリーチャー、《我我我ガイアール・ブランド》、そして火のカード2枚がマナゾーンにある事が必須である。
つまり、闇のカードを3枚以上マナに置くことが出来ない。そのうえ、2ターン目・3ターン目に火のクリーチャーを出す事を考えると、更に火の濃度を上げる必要があるのだ。
以上の理由により、火・闇の枚数配分は、このようになっている。
デッキの動きは、相手が嫌がるクリーチャーを2ターン目から繰り出していき、相手が動き出す前に仕留める、である。
攻め込むタイミングが非常に難しいデッキではあるが、基本的に、相手を妨害できるカードが2枚以上並ぶ状態をキープしながら攻め込むことを意識しよう。
また、常に次のターンが回って来るよう立ち回る事も意識しよう。シールド・トリガーを踏んだ場合にどれだけ不利になるかを考え、著しく不利になるなら、いったん待った方が良い。
しかし、時間をかけすぎると相手が動き始めるので、そこも考えて動くようにしよう。
常に敗北と勝利が背中合わせで存在する戦況になるので、状況判断だけは慎重に行う必要がある。
続いて、こちらが一番最近に使ったリストである。
このリストはチーム戦で使った内容で、さすがに火単速攻を割り切るわけにはいかないので、《こたつむり》で少しガードを上げる構築にしている。
代わりにサガ対面にリソース勝負をされると辛い事になるが、元が不利ではないので、あまり問題にならなかった。
《こたつむり》は2コストの火のクリーチャーなので、《我我我ガイアール・ブランド》で攻め込む際にも役にたってくれる。
ついでにサガ対面においても、《DOOM・ドラゲリオン》の攻撃をいったん止めてくれるので、刺さってくれる。
あとは進化クリーチャーも止まるので、《鬼羅.Star》にも有効だ。
デッキの動かし方は変わらないが、《こたつむり》により火単速攻に偽装しやすくなったため、最初は火単速攻に偽装、その次に赤黒邪王門に偽装して攻め立てる事が可能になった。
実際、この見せ方により、ほぼ全ての対面が勘違いしてくれたものだ。
終わり
今回は、特に大きなギミックもド派手なコンボも存在しない、終始真面目に練り込んだメタビートの紹介であった。
原型である”ほんまかいな邪王門”は、本当に何が強いのか分からないが勝ててしまう、不思議なデッキである。
その強さは、本当に信じられないが、超CSの予選で7-0通過したほどである。本当に訳が分からない。
ただ、自分がド派手なデッキではなく、このようなデッキの方が手に馴染むという事に気付けたのは、このデッキを使って得た一番の収穫であった。
一つのミスが致命傷に繋がるが、正しい手を打ち続ければ、相手を縛り上げたまま敗北に叩き込む事ができる。
相手にとっては、まさに監獄に閉じ込められたような感覚だろう。
そのことから、このデッキの事は、こう呼んでいる。
闇火”プリズン”と。