酒場の喧騒の中で……
大きな音を立てて、大人の男3人分はあるかと思われるほどのテーブルが床にひっくり返った。
俺は鼻から流れ出た血が垂れているのに気が付く。
「チッ、まったくついてないぜ……」
ブスブスと煙が立ち上る手の甲で口元の血をぬぐった。
目の前で気取った顔して立っているこの男、コイツが指をはじくや否や、電光が迸ったかと思うと
視界は真っ白になり、俺の身体は店の床に叩きつけられた、という訳だ。
事の始まりはこのしけた冒険者の店(宿屋と酒場がくっついたような業態が一般的だ)で
スリードラゴン・アンティの卓が立ったことだろう。
スリードラゴン・アンティ自体は特に珍しいもんじゃない。
このフェイルーン大陸にいりゃ、お目にかからない日はないってくらい有名なカードゲームだ。
もっとも、コイツが人気なのはもちろん銅貨から始まって、次第に銀貨、お次は金貨。
果てには国がかかるってくらい賭け事として盛んに遊ばれてるからだ。
こんな場末の店でだって例外じゃない。
とはいえ、アウター・シティ住みの俺なんかが賭けられるのはせいぜい銅貨か銀貨ぐらいなんだが。
今日も酒場の一番壁際、入り口からは影になって見えないテーブルでひっそりとスリードラゴン・アンティが始まった。
(まあ、エールをやりながらやってりゃ、いつの間にか大声になっているんだが)
しょぼくれた髭のドワーフ、何を考えているのかわからないノーム、そしてヒューマンの俺、みんな別に冒険者ってわけじゃない。
だが
店に来て飲む分には誰も咎めやしないし、ゲームだって禁じられちゃいない。
そんなわけで、昨日の稼ぎを賭けて俺たちは必死にカードとにらみ合いをしていた。
始まってからずいぶん経って、俺たちが夢中になっているときに見慣れない優男が店に入ってきた。
おおよそこの場末の雰囲気に似つかわしくない……。
涼しげな眼もと、丁寧に手入れされた髭、綺麗に撫でつけられた黒髪、そして鍛えられた体。
俺みたいなシロウトだってわかる、あれは冒険者、しかも冒険慣れしたヤツだ。
そんないけ好かないヤツがこちらへ歩いてくる。
なんだって? こっちへ来る?
「やあ、スリードラゴン・アンティだね? 俺もそいつに目が無くてね。どうだ、一緒にやらないか?」
そういって髭の男は、金貨を俺たちの目の前にちらつかせた。
「そいつと釣り合うほど俺たちは持ってないぜ」
俺は言ってやった。しかし、テーブルの上に積み上げられた貨幣たちは、はたから見てもひと財産になっていた。
(酒が進み、負けがこんだ俺たちはどんどん賭け金を釣り上げてしまっていた!)
髭の男は、涼しい顔をして顎でテーブルの上をしゃくって言う。
「俺と君たちのソレ全部でやろうじゃないか」
今更、俺たちがゲームをやめられるはずがなかったんだ。
「じゃあ、配ってくれ」
赤ら顔の髭ドワーフが、慣れた手つきでカードを配った。
俺も自分の手札を見る。悪くない。
実際、そのゲームは俺が掛け金を全部取った。
なんだ拍子抜けじゃないか、俺はいけ好かない野郎だと思ったその男のことをカモだと思いなおした。
ゲームが進めば進むほど、俺たちが勝ち、そしてたまに男が勝った。
だが、どんどんレートは釣り上がり、俺たちの懐は十分温まっていった。
「やれやれ、種銭切れだよ。これで終わりにしよう」
そういって男は革袋からプラチナ貨を落とした。
「プラチナ貨だって? 無茶苦茶言いやがる、コイツがどんだけだかお前知らないのか?」
ドワーフが口から泡を飛ばしながら喚いた。
「なあ、まだテーブルにはたくさん金が乗っかっているだろ。それに、君たちの財布にもまだ入ってるんじゃないか?」
俺は無意識のうちに、自分の財布を握りしめていた。
チャリ……と音がして、重みが腕に伝わってくる。
「プラチナだぜ、俺たちが勝てば丸儲けよ。なあ、ここはやろうぜ」
ノームの野郎が耳打ちしてくる。ドワーフは顔にびっしり汗をかいている。
「そうだろ? ここまで来て引っ込むような腰抜けじゃないよな?」
男はどこか余裕を感じさせる口ぶりで俺たちへ語りかけてくる。
「やろうぜ、なあ。」
ノームもドワーフも俺をじっと見ていた。
「ち、仕方ない、やるか」
最後のゲームが始まった。配られたカードを1枚ずつみつめる。
どれも悪くない。この分だと、こいつらはともかく、俺は勝てる気がする。
髭の男は、いい顔も悪い顔もしていない。ただ、余裕のある笑顔で俺たちを見ていた。
「さあやろうぜ」
ドワーフが言うと、カードを出していった。
うん、なるほどな。
ノームをちらりと見やる。どうやらこのゲームは降りるつもりのようだ。
そして俺、俺は自信満々でシルヴァー・ドラゴンのカードを出した。どうだ、コイツよりいい札はないだろう。
髭の男は、笑うと、エンシェント・レッド・ドラゴンのカードを出した。
なんてこった! ここで!!
「悪いね、最後に笑うのは俺だったようだな」
男がテーブルに出ている金をかき集めようと手を伸ばした。
まて、おかしくないか?
あのエンシェント・レッド・ドラゴン、普段のカードと違うところがある気がする。
「おい待て、そいつに触るんじゃない」
俺は、カードを持ち上げた。
違和感は、最初だけだった。カードを眺めれば眺めるほど、いつもと同じ気がする。
よく考えろ。
俺たちが使っているカードのエンシェント・レッド・ドラゴンは……。
「おい、コイツには王冠が無いぜ!」
ドワーフもノームも弾かれたように立ち上がった。
そう、俺たちは前に酔っ払ったときにふざけて、エンシェント・レッド・ドラゴンのカードに王冠を書き足したんだった。
「コイツはアシャーダロンじゃない! 俺たちのデッキに入っているのは王冠をかぶったアシャーダロンさまなんだぜ!
とんだイカサマ野郎だなアンタ。しかし、どうやったんだ?」
俺も立ち上がると、その髭の優男を逃がすまいと距離を詰める。
「やれやれ……おとなしく騙されてくれればよかったのに」
髭の男は、うんざりした顔で俺を見た。
「しかし、よく俺のイリュージョンを見破ったな。もしかしてお前、ウィザードか?」
「そんなわけないだろ」
そんなわけはなかった。どうひっくり返してみても、俺はタダのその日暮らしだ。
「まあいい、見せてやるよ。カードの秘密を、な!」
そいつが指をはじくと、カードはタダのグリーン・ドラゴンに変わった。
しかし同時に、指から電光が迸り、俺の身体を吹き飛ばす。
「《ショッキング・グラスプ》のお味はいかがかな……?」
コイツ、ただの冒険者じゃねえ、魔法使い【ウィザード】だったのか!
「お前、何者だ!」
俺が叫ぶとそいつは答えた。
統率者:ウォーターディープの多芸多才、ゲイルデッキ(D&D限定構築)
ついに発売された統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い、皆さんさっそくエンジョイしておりますでしょうか?
ただひたすらにパックを剥くもよし、気の合う友人を集めてブースタードラフト統率者戦を開催するもよし、非常に楽しみの幅の広いセットになっていると思いました。
さて、この「バルダーズ・ゲートの戦い」は世界的大ヒットテーブルトークRPG、ダンジョンズ&ドラゴンズ(以下D&D)とのコラボレーションセットとなっています。
以前発売された「フォーゴトン・レルム探訪」でもD&Dコラボレーションがありましたので、D&Dコラボ第2弾ですね。
フォーゴトン・レルム探訪でも多く収録されたD&Dのモンスター、呪文、そして数々の英雄たち。
D&Dを知らない人には新しい出会いが
D&Dを知っている人には懐かしさと新鮮な感動があったのではないでしょうか。
かくいう私もダンジョンという新しいシステムにワクワクし、ダンジョン探索をフィーチャーした統率者デッキを組んで遊んでおりました。
さて、せっかくD&Dを強くフィーチャーしたカードセットが2つも出たんだから、D&Dを前面に押し出したデッキを組むことで、卓に座ったプレイヤーたちにD&Dを強く印象付けることができるかもしれない。
そして意思セーヴ(※1)を繰り返すうちにセーヴィング・スロー(※2)に失敗して
うっかりD&Dプレイヤーへと道を踏み外し
D&Dプレイヤーも兼ねるようになってくれるかもしれないと強く信じたので、さっそくD&Dセット限定デッキを組んでみました。
※1……D&Dでは魔法や攻撃、トラップの効果がどれだけ効いたのか、もしくは無効としたのかを判定する行為がある。意思セーヴは誘惑・幻覚など精神的な効果への対抗として行われる
※2……上記の魔法やトラップの効果を無効化できたかを判定する行為そのものをセーヴィング・スローと言う
統率者として選んだのは《ウォーターディープの多芸多才、ゲイル》です。
背景として《酒場流喧嘩殺法》を選びました。
ゲイルの能力、手札からインスタントやソーサリーを唱えたとき、墓地にあるその対となる呪文(手札からインスタントを唱えたであれば、ソーサリー)を唱えることができる能力は、リソースが不足しがちとなる統率者戦に非常に向いているなと感じたため第1弾統率者としてチョイスしました。
(評判が良ければ第2弾、第3弾と記事が掲載されるかもしれません。)
ゲイルの持っている背景選択の能力は非常に強力で、背景次第で同じ伝説のクリーチャーでもデッキの内容、戦略がガラッと変わる面白いシステムになっています。
今回はインスタント、ソーサリーを中心にアドバンテージを稼ぐことを主眼にしているので、唱えることのできる呪文を増やすことができる《酒場流喧嘩殺法》としました。
クリーチャーのパワーを強化する能力はメインで使用する予定は考えていないのですが、戦場の状況を見ながら自分のクリーチャーを強化して攻撃することも行います。
さて、デッキ全体のコンセプトはインスタントとソーサリーを唱えて、ジワジワリソースを稼いで勝つとなっています。
フォーゴトン・レルム探訪とバルダーズ・ゲートの戦いからのみカードをチョイスしました。
ゲイルの能力を使用して呪文を唱えるためにはどうしてもマナが多めに必要となることから、土地とマナサポートになるアーティファクトは多めにしてあります。
さらに、ゲームを瞬時に制圧できるコンボは搭載していないため、今回の目玉ともいえるエンシェント・ドラゴン2種でコンバットを制することを目指します。
《ミーティア・スウォーム》や《マジック・ミサイル》、《ブレス攻撃》などの火力などを駆使してボードコントロールを行い
自分で除去できない困ったパーマネントは他のプレイヤーに除去をお願いしましょう。
それが統率者戦ってもんだろう?
バランスに気を付けて組んだので「まったく何もできなくて死んだ」ということは少ないと信じています。
信じることが大事。
この多くの呪文の中でぜひ皆さんに紹介したいカードを取り上げたいと思います。
《ブラー/Blur》
あなたのコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。
それを追放し、その後、オーナーのコントロール下で戦場に戻す。
あなたはカード1枚を引く。
《ブラー》
D&Dにおけるブラーはウィザードが使える呪文の中でも初期のころ、レベル2呪文として習得することができます。
効果は幻影の魔法によってあなたの身体は幾重にもぶれて見え、あなたを攻撃しようとするものは攻撃判定に不利を得る、となっています。
これぞファンタジーの魔法使い! って感じじゃありませんか?
デッキの中ではブリンクの効果によってクリーチャーを守ることができ、ゲイルはもちろん、各種ドラゴンなど細い攻撃手段を守るためにも貴重な呪文になること請け合いです。
何を血迷ったかコンボで勝とうと思ったとき版デッキ
さて、D&D限定構築ではカードプールが狭いな、もっと勝てるデッキで戦いたいと思いますよね。
そこで、統率者戦で使用できるカードを目いっぱいつかってデッキを考えてみました。
インスタント、ソーサリーを軸にコンボして勝てる、というコンセプトでカードをチョイスしてみました。
メインの勝ち筋は
《嵐の伝道者、ラル》+呪文コピーカード2枚(発展、余韻など)
のコンボで呪文のコピーを繰り返すことで《嵐の伝道者、ラル》の誘発型能力を連発してダメージを与え続けるというものになっています。
また、サブプランとして
《ブライトハースの指輪》+《玄武岩のモノリス》
のコンボで無限マナ、《火の玉》や《青の太陽の頂点》のX点呪文を使って勝つ形を目指します。
デッキのカードはコンボカードを早く引き入れることができるようにドローカード、サーチカードを中心にチョイスし
また大量にマナを使用するためマナ加速カードを多く採用しています。
お遊びでD&D系のカードも少し採用していますので、コンボへデッキを寄せる際は《猿人の指導霊》などと入れ替えてもよいかもしれません。
私はこういうコンボデッキは、非常に大好きなんですが、まず間違いなく参加者が全員「とりあえず殿下パンチ」と言って何もせずに負けるという未来が見えます。
他のプレイヤーとの相互作用が少なく、一人で勝ちを目指すようなプレイイングになるため、卓内でどういうデッキを使って遊んでいいか、という点はよく話して共通認識を作っておいてください。
終わりに
今回は《ウォーターディープの多芸多才、ゲイル》を使用したD&D限定構築統率者デッキを紹介しました。
D&Dコラボのカードだけでデッキを組めば、D&Dの世界がより身近になり、D&Dで遊びたくなってくるのではないでしょうか。
また、D&Dプレイヤーの友人と「おい、統率者やろうぜ、D&D限定でな!」と声をかければ
マジック:ザ・ギャザリングをD&Dプレイヤーと楽しむ機会が増えるかもしれません。
みなさんも、バルダーズ・ゲートの戦いをさらに盛り上げる遊び方にチャレンジしてみてください。
それではまた。