大切なものを失った2人の男の話【後編】-《星遺物》シナリオ5-
■はじめに
こんにちは、もしくは初めまして。カニ丸です。
前回の遊戯こばなしコラムにて《ヴィサス=スタフロスト》と彼が戦う異世界のシナリオについて解説させていただきましたが、そのコラムが掲載される直前に新情報が登場したのはKONAMIの広報の方と謎のシンクロと言いましょうか、親近感を覚える今日この頃です。
2022年10月15日発売予定の「PHOTON HYPERNOVA」にてさっそく新規が来るようですので、ますますシナリオに面白い展開が期待できそうで楽しみです。
■妹を亡くした兄の旅
前回の話を思い返す形になりますが、妹である《イヴ》を戦いの中で救えなかった兄の《ニンギルス》は、彼女の亡骸と幼馴染が持っていた《機界騎士》の双剣の片方を持って行方をくらませてしまいます。
なぜ双剣の片方だけを持ち去ったのか。
おそらくですが、持ち去った方の双剣の片方は《イヴ》が自らに突きたてた因縁深き一振りだと思われます。
先の一件の影響で支配者は不在となり、統率者のいない【機怪蟲】も機能を停止している状況です。
脅威がなくなった世界はどこまでも平和で、ただただ閑散とした廃墟の群れは、亡骸を抱え悲しみに暮れた《ニンギルス》独りでも旅ができるほどだったでしょう。
さまよう彼は、妹の葬儀をするでも、埋葬するでもなく、しかしある場所を探していました。
というのも、彼には目的があったからです。
この時の《ニンギルス》はかつての栄華をまだ知りませんでしたが、彼らの力をもってすれば、あるいは彼らが持つ知識があれば妹を救えるのではないかという考えに至ったのでした。
その執念たるや…
《ニンギルス》こと《聖杯に誘われし者》のテキストの最後にはこう書かれています。
「本人はたった一人の妹を守る為だけにその槍を振るっている。」
彼の全ては妹であったというのが、この時からうかがい知ることができました。
彼女さえ救えるのであれば、手段は問わないのです。
たとえそれが「悪」と呼ばれる行為になろうとも。
しかし、《機界騎士》の遺した設備に妹を救う直接的な手立てはありませんでした。
代わりに、まだ多くの施設が世界のどこかに残っていることを突き止めたのです。
───《星遺物》のような特別な力をもった何かがそこにあるかもしれない。───
必ず妹を取り戻すという意思の下、それらをひとつひとつ確かめに行く旅路が始まったのでした。
絶命した妹の亡骸を抱えながら、諦めない心で様々な古代の文明の施設をめぐる《ニンギルス》はついに、重大な秘密を知ってしまいます。
そう、それはかつて《リース》や古代の《パラディオン》が辿り着いた世界の真実です。
過去に起きた世界の崩壊、それは「鍵」と呼ばれる大きな力を宿したものが起因となって引き起こされました。
《ニンギルス》は多くの施設に残された情報を元に、「星の勇者」伝説の本当の意味を知ってしまいます。
「鍵」と「大いなる闇」の真相を知った彼は、今までの旅で知り得た技術を元に妹を再生させる計画を考えました。
その力さえあれば、妹は復活する。
そのためには、彼女の器となるべき体が必要だ。
そう考えた《ニンギルス》は妹の体を元に人形を作りだします。
妹がすべてであった彼にとって、《イヴ》こそが世界であり、彼女のいない世界に意味などなかったのです。
世界を救うために《イヴ》は命を失ったのだから、《イヴ》のために世界は犠牲になるべきだ、という考えに至った彼は、そのために実験と研究を繰り返します。
《イヴ》の亡骸を元に何度も何度も実験は行われ、そうしてようやく《アウラム》の元から持ち去った《機界騎士》の双剣の片方を扱えるだけの人形が誕生しました。
これはつまり、実験の末《ガラテア》には《イヴ》が持っていた「鍵」の所有者となれる力が宿ったということです。
「鍵」の所有者になれるということは、「星の勇者」として…言い換えればこの世界の神として破壊と再生の力を扱う資格がある、ということになります。
兄は妹のために、妹を「神」にする実験を行っていたのです。
この実験には多くの時間と労力を費やしました。
明確にどれほどの時間がかかったのかを記した表現は今のところありませんが、実験の副産物として数多の《オルフェゴール》が誕生し、それらは「機械兵団」と呼べるだけの数になっていたのです。
■兄と妹と「妹」
あまりにも有名なので、ご存知の方も多いかと思います。
ちなみに「ロンギヌスの槍」には時を同じくして登場した「聖杯」があるのですが、《星遺物》の物語で最初に登場するのが《星遺物-『星杯』》であったのもなにか意味があるのかもしれません。
《ニンギルス》についてはシュメール神話に登場する、王都ギルスの守護神の名前からきているのではないか、という説が濃厚です。
「星辰の森」を守っていたことも考えると間違いはなさそうですが、掘り下げるとこれからの展開のネタバレとなってしまうので、今回はさっとだけ。
シュメール神話というと馴染みがあまりない方も多いと思うのですが、紀元前5500年頃から存在していたとされるのですが、詳しいことはまだ分かっていません。
楔形文字などを使用していたそうです。
「遊☆戯☆王」を愛する我々にとってはお馴染みの古代エジプトと並ぶほど古い文明であったということです。
では、妹の《イヴ》はというと、こちらはおそらく皆様もご存じであろう聖書に登場する「アダムとイヴ」が元ではないか、というのが有力ですね。
《イヴ》はこの世界における「神」たる存在である力「鍵」を継承できる唯一の存在でしたので、こうした名前になったのではないでしょうか。
そして今回忘れてはならない存在、それが《ガラテア》ですね。
こちらはギリシャ神話に登場する元は彫刻であったけれど人になった女性「ガラテア」からきているだろうと考えられます。
由来は《イヴ》の新しい器としての意味合いも大きいのかもしれませんね。
《ガラテア》に関しては今後のシナリオの流れに関わってくるので多くを語れませんが、カードイラストのエモさたるや。
《イヴ》に良く似た姿で、《アウラム》の剣を鎌として扱い、その首元にあるのは、《オルフェゴール・プライム》で《ニンギルス》が握っていたであろう妹のリボンですね…。
業が深いと言ってしまうとそれまでですが、《ガラテア》という存在を生み出した《ニンギルス》の執着が読み取れる1枚です。
しかし、これは世界にとって、決して「正しいこと」ではありません。
《ロンギルス》は妹復活のために、世界を一度破壊しようとしていました。
破壊し、そして再生させる。
それこそが彼の願いを成就させるための唯一の方法でした。
ところが、《ロンギルス》の幼馴染みである《アウラム》はこの邪悪な気配を遠い地で予見していました。
彼にはあの事件の時に受け継いだ「鍵」の継承者としての力があり、その力は《ロンギルス》の過ちと、《ガラテア》の脅威を《アウラム》にしっかりと伝えていたのです。
彼は「どうか勘違いであってほしい」と願いながらも、新たに出会った複数の部族たちで《パラディオン》という連合軍を結成します。
その名はかつて世界で「鍵」の研究をし、世界を守るために《機界騎士》を遺した人々の名を引き継いだものです。
■おわりに
いかがだったでしょうか。
このシナリオシリーズでも《オルフェゴール》が登場した頃くらいから人気が加速したイメージがあり、今なお《オルフェゴール》デッキを愛用してらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
今でこそ、大会など参加者の多くがこのテーマを使っていたな、と語り草になっていますが
テーマが出た当初は大会などですぐに活躍することはなく、当時は《トリックスター》や《オルターガイスト》の方が使用率が高かったと聞いています。
筆者・カニ丸は単純にテーマとしてかっこよかったという理由で気に入り、デッキを組んでいたので、それが今日のように話題のスポットライトを浴びる日が来ようとは思ってもみませんでした。
・・・こちらも佳境ということもあって気になるところですね!!
まだまだシナリオにも続きがある《星遺物》シナリオですが、今回はここまでにしておきましょう。
また機会を見てお話できたらなと考えておりますので、よろしくお願いいたします!
カニ丸でした!